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大人は悪いこともする

『貴族も多数決をとる』とは、多数決はあくまでも手段であって弱者の権利を保障するとは限らないことを指すが、マサルたちがやったことはそれに近かった。


「えーっと、話を整理するとさ」

 ソトクがマサルから聞いた話を噛み砕いて、自分の口で話してくれる。

 これは彼を囲んで、マサルとリコ、バイザがいる風景である。

「俺がそこの獲物を二つ担いで」

「うん」

「山賊に貢いで」

「そうそう」

「情報を引き出してこい、と?」

「それで合ってる」

 この案はソトクを除いた三人全員が賛成しており、ソトクの票は意味を成さない。

 彼は頭を抱えてから、ささやかな抗議を示した。

「カーツもリコもさ……俺がよくお袋の飯をおすそ分けに行ったこととか忘れてんじゃねえの?」

「それはマチおばさんの好意であってお前のじゃねえだろ。バイザのおっさんの前で恥かかせといてよく言えたな。あと、カーツは今は族長になって、マサルって名乗ってるからな。あたしの旦那だ。舐めた口きいたら谷底に蹴落とすからな。そこんとこ覚えとけよ」

「あっ、はい」

 リコの丁寧な説諭に、ソトクの希望は失われた。

 そんな彼を見て、バイザが頭をかいてから、あるものを差し出した。

 それは、奥さんが作ってくれた弁当だった。

「腹減ってんだろ? これ食ってから行け」

「……でも」

「若いのが遠慮すんな。半端に遠慮すっから馬鹿な真似をするはめになるんだ」

「ぶ、ブヒ……」

 ソトクも根は素直な性格らしく、涙ぐんで喉を詰まらせると、背中を向けて弁当を食べ始めた。

 ちなみに中身は、マサルも食べた餅であるが「弁当用のものは傷まないよう、薬草を混ぜ込んである」と出かけるときにバイザの奥さんから聞かされていた。

「そういえばお二人は、昼飯を食べたんですかい?」

「いえ、弁当を届けたらそのままデューロと戻るつもりだったんで」

「なるほど……じゃ、ソトクが出発したら、ちょいとついてきてください。近場に知り合いの川魚の生簀があって、そこでごちそうしますんで」

「えっ、魚があるんですか」

「その様子だと魚は嫌いじゃなさそうですね」

 嫌いも何も、好物である。こちらの世界に来てからは塩漬けの魚ばかりを食べていたから、焼くなり蒸すなり、とにかく新鮮な魚が食べられるのは嬉しいことだった。

 そんな風にソトクについては関心が薄れた風を装っておいて、彼が出発してから、マサルたちはお互いの顔を見た。

「じゃ、ばれないようにつけるか」

 リコの言葉に、マサルとバイザが頷いた。

 そう、この計画は二段構えであり、ソトクは一人で向かっているつもりでも、実際にはその後を全員がつけていくことになっていた。

 いつ兵隊が山狩りを行うかわからない以上、悠長にソトクの帰りを待っているわけにはいかないのである。

 いざとなればソトクを連れ出して、集落に駆け込む算段だった。

「兵隊は気に食わないが、山賊も放置はできませんでね。居所がはっきりしたからには、まあ良い機会でしょう」

「でも一度、集落にしらせに戻った方が良いんじゃ?」

「それだと怪しまれるかもしれませんでね。成り行きでこうなったってことにしましょうや」

 確かにその方が誰にとっても良いだろう。ソトクには少し辛く当たった感があるだけに、彼についてもせめて終わった後ぐらいは親切にしてあげたい気持ちもある。

「あっ、そうそう。俺、魚は後でちゃんと食いたいな」

「心配せんでも、息子が持ち帰ったやつと一緒にお出ししますよ」

 それを聞いて、リコが小声で「良かったな」と呟いた。

 この調子だと昼飯どころか夕飯になりそうだが、マサルは「後の楽しみ」と思うことにしたのだった。

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