知り合いを増やしてくれる大人は良い大人
「あ? 誰だっけ、お前」
「ソトクだよ!」
「あ〜、あ〜〜〜〜〜、あ〜! マチおばさんとこの!」
「そうそう! そうだよ! 思い出してくれた!?」
「てめえ、前にあたしのケツ叩いたよな!」
「そんなことまで思い出さないで!!!!」
捕まえたオークとの間でリコが微笑ましい話をしているのを、マサルは黙って聞いていた。
このオーク……ソトクは、古き神の森の集落から出て行った若いオークの一人だった。
マサルは一瞬、このオークこそがイベやリコの父親なのかと思ったが、よくよく見ればバイザと比べてもかなり若い。
多分、自分と同じか、それよりも下だろう。
バイザはというと、息子に自分の怒った姿を見せたのが気恥ずかしくなったのか、単にバカバカしくなったのか、小屋の外で煙管をふかしていた。
ソトクがカーツのことを知っている以上、リコに任せた方が何かと都合が良いだろう。マサルはバイザの隣にあぐらをかいた。
「すみません、なんかうちの集落のオークが迷惑かけちゃったみたいで……」
「気にしないでくださいや。どこにでも馬鹿やらかすのはいるんだから」
そう言ってもらえると助かるが、とりあえずこれからどうしたものか。
そもそもソトクはどこから来たのか。他にも仲間はいるのか。集落に泊まっているのか。
そこら辺の疑問はリコが聞いてくれるとして、ソトクをどうすべきだろうか。
とりあえず切り刻んで谷に投げ捨てる案は無しである。かといって彼一人のために予定を変更するのも難儀である。
マサルが頭を悩ましていると、デューロが父親に声をかけた。
「なあ、親父。怪我しなかった?」
「あ? 俺の心配なんかしなくて良いんだよ」
「うん……俺、とりあえず持てるだけ持って、先に家帰る」
「ん」
デューロはそそくさと準備すると、小さな獲物だけを選んで、とことこと山をおりていった。
「あいつも親の心配なんかするようになったんですねえ。リコさんの事情はさっきちょっと聞いたが、マサルさんの親御さんは?」
「俺ですか? まあ……遠くにいますね」
「……そうですかい。そいつは悪いこと聞いたな」
つい空を見ながら言ってしまったものだから、勘違いされたらしい。
しかし、これから先も会えるかどうか怪しいのは本当であるし、大真面目に転生の話をするのも手間であるから、訂正はしなかった。
「私はみなしごでしてね。小さい頃はフージの司教さんに飯食わしてもらったもんですよ。家内とはその頃からの付き合いで……まあ、気付いたらこうなってまさあ」
この司教というのはゲンイのことではなくて、時系列を考えれば先代のことだろう。
マサルはオークとエルフの出会いについて聞けて、素直に感心した。
「ああ、そういう出会いだったんですか。それがまた、なんで山に住むことに?」
「ここの集落はよそもんには寛容なもんで、司教さんのツテもあったし、ちょうど良かったんですよ。あの若いオークも、なんか事情があってここに来たのかもしれませんやね」
バイザが煙管を吸う気になったのは、そうした同情の気持ちもあったらしい。
「じゃあ、バラニさんともその頃からの?」
「いや、あの方は……おっと。終わったようですぜ」
雑談の途中で、ソトクがいよいよリコに小屋から引っ張り出されてきた。
彼はとりあえず、リコと話すだけ話したことで、頭が冷えたようだった。
「すみませんでした……俺、山賊のとこから逃げてきて、腹減ってて……」
山賊の単語が出た所で、近くにいるのではとマサルとバイザの間に緊張が走ったが、リコが手を振った。
「ここらにはいねえらしい。どうも二つぐらい山を越えた所の谷間がねぐららしいぜ」
「ああ、あそこか」
土地勘のあるバイザは理解が早い。
彼は少し考えた様子を見せたので、マサルはあることを察した。
「ねえ、バイザさん。俺、良いこと考えたんですけど」
「言ってごらんなせえ」
妙に二人が仲良く話す様子に、リコは首をかしげていた。