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寝起きは優しくしてあげましょう

 冬の間に使われる小屋は二つあって、片方は三人ほどが囲炉裏を囲んで休めるようになっていた。避難所を兼ねているのだろう。

 さて、もう一つの建物はその隣にあった。こちらは一見すると物置だが……中には獲物を吊り下げるためのフックと、作業台があった。

 綺麗に掃除はされていたが、血のシミが所々にくっきりと残っていた。

 解体場である。

 その作業台の上に、マサルは運んできたオークを仰向けに寝転ばせる。

 するとバイロが手早く、その獲物の体をロープで固定した。


「ぶひっ?」

 換気窓から差し込む昼の陽光が顔に当たって、意識を失っていたオークが目を覚ました。

 彼の両脇には二人のオークが立っており、それがマサルとバイロであった。

「おっ、目を覚ましたみたいですよ」

「まったく、手間をかけさせやがって……」

 見るからに上機嫌ではなさそうな二人に、縛られたオークは自分が置かれた状況をなんとなく理解したらしかった。

 彼はくらくらとする頭のままで体をよじったが、作業台にしっかりと固定されており、ギシギシという音を立てるばかりだった。

「おい、言葉がわかるか? リコに思いっきりぶん殴られて生きてるなんて奇跡だぞ?」

「そんな強く殴ってねえよ! びびって勝手に気絶したんだ!!」

「ほんとにー?」

 リコは外に出た所でデューロと一緒にいたが、会話は聞こえていた。抗議の声は殴られた側の頭に響いたらしく、唸った。

「ぶぎぎぎ……いてえ、いてえよ……」

「舐めたこと言ってんじゃねえぞ! 子供のいる所に矢を放っておいて!」

 バイザの言ってることは全くの正論である。

 このままだと殴り殺しかねないので、マサルはバイザを宥めた。

「まあまあ。こいつをどうするかはゆっくり決めましょうよ。それより、こいつは集落の人じゃないんですね?」

「違う。人様の狩場で好き勝手するような野郎はいない。足腰も弱そうだし、こいつは根性なしの平場の奴だよ」

 そこまで言わなくても良さそうなものだが、気が立っているのだろうから、仕方ないだろう。

「他の宿のお客さんってことは?」

「無い、とは言い切れねえな……だからって、こいつを集落まで連れて行って、他のやつに見てもらうのもまずい。こいつがもし……」

「あっ、そうか……」

 マサルも理解した。

 もしこの闖入者が、山賊だった場合……兵隊が山狩りをする根拠になってしまう。

「まあ、兵隊どもは一度やるって言ったらやるでしょうから、こいつを引き渡しちまって、煮るなり焼くなり好きにしてもらうのもありっちゃありですがね」

「……だってよ。言うことがあれば今のうちに言っておかないと、後がないぞ」

 そう言われてもなお、うんうんと唸るばかりだったオークに、バイザがとうとう限界の手前まで来た。

「よし、わかった。今から生きたまま手足を切り落として、谷に投げ込んでやる。山の神様への供え物になれるんだ。上等な死に方だろう」

 バイザはそう言って、棚から大きなナタを取り出した。それはリコの肉切り包丁にも劣らないほどの無骨さであった。

「ま、まってくれ! いてててっ! 頭いてえ! くそっ、ちげえんだ! ちげえ! 黙ってたのは! 謝る、謝るからさ! いてててて!」

「何がちげえんだ!?」

「とにかくちげえんだ! それより、カーツ! 俺だよ! カーツ! わかんねえのか!? リコもいたよな!!」

 ぎょっとしたのはマサルである。バイザはカーツという名前は心当たりが無いので、不思議そうにマサルを見た。

 そんな目で見られても、マサルも困ってしまう。

 とりあえずの結論として、マサルは言った。

「……ロープ、解きましょうか?」

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