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いつ逃げるかは最初に決めよう

 狩りと聞いてマサルは弓矢や銃を使うようなものを想像していたのだが、デューロの父親であるバイザがしていたのは、罠猟だった。

 日当たりの良い山の草原に、バイザの姿があった。それを見付けたデューロは母親から預かった弁当を持って、駆け寄っていった。

 デューロによれば狩場はいくつかあるそうなのだが「今の季節はここ」というのが決まっているらしい。

 狙うのは大体が兎に似た小動物である。

 が、今日は少し様子が違った。

「おお、お客さんたちも来たのかい。ちょうど良かった」

 デューロから弁当を受け取ったバイザは、仕留めた獲物を指差した。

 兎に似た小動物は既に血抜きがされ初めていたが、その隣の獲物は随分と大きく、デューロぐらいの大きさがあった。大物である。

 それも、三頭もいた。いや、三羽か。この動物はタニワというこの辺に生息する大型の鳥で、滑空する以外は飛べないのだという。

 でっぷりとしたお尻や太腿の割に顔や足先は細くて、なんだかひよこがそのまま大きくなったみたいだった。

「たまにこうやって、狙ってない獲物もかかるんですがね……今日はちょいと数が多くて、運ぶのが大変だなと思ってたとこなんです」

 嬉しい誤算ではあるのだが、専用の罠以外にかかると、その罠は傷んでしまうのだった。持ち帰って修理が必要になる。

 罠は大切な道具であり、それも一緒に持って帰るとなると……確かにバイザ一人では難儀もするというものだった。

「今日は家内と一緒に美味しいタニワ料理を出しますんで、運ぶのだけ手伝ってくれませんか」

「良いですよ」

 二つ返事で答えたマサルに、リコが「ちょっ」と舌を鳴らした。

「お前な、ちょっとはここら辺を見て回らないといけないのに、安請け合いするなよ」

「あっ、そういやそうだった」

 二人の会話を聞いたバイザは、落ち着いた口調で言った。

「立ち入ったことだと思って黙ってましたが……もしかして、人探しでもしているのでは?」

「えっ」

「私も家内と同じで、客商売は長いですからね。人の顔を見る仕草とかでなんとなくわかりますよ。バラニ様がわざわざデューロと一緒に寄越すのだって、相応の理由があるはずですしね」

 デューロの頭がよく回るのは、バラニの影響というよりは、親に似たらしかった。

 もしかしたらバイザもまた、山をおりて勉強していた時期があるのかもしれない。


 今はただでさえ集落の様子が剣呑であり、逗留先の主人には事情を話しておくべきだろう。

 そう思ったマサルがリコに目配せすると、彼女は頷いた。

 どちらが話そうかと思ったところで、リコの方が先に口を開いた。

「実は、あたしの親父がフージの本山にいたことがあるらしいってつい最近わかってね……もうずっと行方不明なもんだから、せめて消息ぐらいは知りたくてさ」

「親父さん……というとエルフ?」

「いや、オークだ」

 そこまで話したところで、ヒュウッ、という風切り音がした。

 寝転しておいた獲物に、矢が突き立つ。

 真っ先に動いたのはリコである。矢が飛んできた方向を瞬時に割り出して、その林の方にまっすぐに突っ込んでいった。そうした方が射手は距離を測り辛いからである。

 その点、戦闘経験の数が違う。

 バイザが咄嗟にデューロを庇う格好になったので、マサルはその二人の盾になる形で立ちふさがった。

 山に入るからと念の為に愛用の肉切り包丁を持ってきていたリコは、ここで久方ぶりに暴れた。

 手近な木を馬鹿力で叩き折ると、その木が倒れてる間に木の肌を駆け上って、更には林の木々の上に飛んだ。

 射手はこの時点でわけもわからなくなったようで、二の矢はついぞ飛んで来なかった。その方がありがたい。やたらめったら撃ちまくられたら、まぐれ当たりでも怖い。

 騒がしかったのは、この光景を父親に庇われながらも見ていたデューロである。

「うおおおお! 姉ちゃんすげえ!」

「こら、静かにしてろ!」

 そんな親子の会話からじきに、林からリコが出てきた。

 彼女は一人のオークの首根っこを掴んでおり、そのまま引きずってきたのだった。

 一応は五体満足ではあったが、思い切りぶん殴られたらしく、意識は無くなっていた。

「リコ……あまり持ち帰るものを増やすなってば」

「殺さなかっただけ褒めてくれよな」

 二人のやり取りを聞いていたバイザは、ごほんと咳払いをした。

「冬に使ってる狩り用の小屋が近くにあるんで、ひとまずそこに運びましょう。ここじゃまた狙われるかもしれない」

 デューロが持ってきた弁当を食べる暇は、今日のバイザには無さそうだった。

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