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課外授業って言葉がエッチに思えるのは健全

 山の夜は長く感じられる。

 旅館での夕食は、芋を餅にして、この山で取れる食材のペーストを付けて食べるもので、質素ではあったがのんびりと食べることができた。

 他には漬物と、丁寧に味を整えた山菜の小鉢が数種類である。

「最近は兵隊さんが贅沢なものは持っていってしまうから……明日には何か用意しますんで」と部屋まで食事を持ってきてくれたバイザは申し訳無さそうに言っていたが、マサルからすると旅先ではこれぐらいの方が食べ易い。

 食べてる最中、やたらリコがこちらを気にしていたのでマサルは不思議にと思っていたが、食後に訊ねたら「また餅を喉に詰まらせやしないか気になった」とのことだった。

 マサルはすっかり忘れていたが、カーツの死因はそれである。

「ごめんごめん、無神経だったよな」

「謝るなよ。あたしが勝手に気にしてただけだし」

「でもまあ、俺が生まれたとこだと年が明けると餅を食うんだけど、毎年亡くなる方がいたよ」

「あっ、やっぱり!? そうだよなあ、餅って怖いよなあ……」

「でも美味しいからなあ」

「わかる」

 詮無い話をしながら、食卓のランプの明かりを頼りに広げた地図に目を落とす。

 この世界では正確な地図は軍隊にしか無いとかで、手製である。

 平地から山並をスケッチして、何ヶ所かで繰り返し、それらを元に等高線図に変換していく。

 そこに今度はデューロから聞いた山にある集落の位置を書き込んでいく。

 しっかりとした測量をしたわけでもなく、地図の造り方としては単純なものではあるが、滞在中にリコと二人で回りきれる範囲では十分なものとなりつつあった。

「なんかゴソゴソやってるのは見てたけど、結構しっかりしたのができたな。お前、学校にでも通ってたのか?」

 現代世界での学校制度の話をし始めると長くなる。マサルはそれについては適当に端折った。

「昔、自分の地元の山の地図を作ろうって授業があってさ。それでこういうの作ったんだ。本物の地図と比べたらぐっちゃぐちゃだったけど、山の造りみたいなのはわかって面白かったなあ」

 なお画材はバラニからもらったものである。さすがは宗教の本山だけあって、記録を付けるための道具は沢山あった。

「ふうん……まあ、ここは他所様の土地だからな。こういうの作ってくれるとありがたいよ」

「リコの腕っぷしにばかり頼ってたら悪いしね」

「あのなあ……」

 冗談を言いつつも、とにかく明日回ってみる範囲を決めておいた。

 本当ならすぐにでも他の集落に行くなどしてみたいところだが、まだこの集落にも慣れてるとは言い難い。

 他所者に対する警戒心をあおるようなことは控えて、段々と行動範囲を広げていくべきだろう。

 というわけで、とりあえずはこの集落の正確な範囲と地形を確認しながら、噂話などを拾っていくことになった。

「それにしても新婚って便利だな。そうと知った途端、向こうからべらべら喋ってくれるし」

「騙してるわけじゃないけど、ちょっとした罪悪感はあるね……」

 マサルがしみじみと言うと、リコが机の上で手を重ねてきた。

 少し気恥ずかしさを覚えてから、マサルは咳払いをした。

「とりあえず、時間はたっぷりあるんだからさ。のんびりやろうよ」

「そ、そうだな」

 お互いに少し落ち着かなさを覚えながら、二人は寝床に入った。

 山の鳥の鳴き声を聞きながら、安らかな寝息を立てたのだった。

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