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鼻毛の濃さで人を判断するのはやめよう

 デューロの実家がある集落は、山々に囲まれた谷の入り口にあった。

 この谷は温泉の名所らしく、周辺で一番高い山が活火山のようである。

 修道院本山から出発して二日目の昼過ぎにマサルたちは集落に着いたが、そのときちょうど山の頂上から白い筋が棚引いていた。

 その山は集落が見えてくるずっと前から見えていたので、マサルは道中でデューロから名前を聞いていた。

 マキヤ山というらしい。

 この地はフージ教の信仰対象でもあるが、何より温泉地として賑わっていた。

 谷に少し入った辺りに湯畑が広がっており、集落の中にまで硫黄の匂いが流れてくる。


 ジュカの国の兵隊もいるにはいるが、交代で取る休暇で来ていることが多いようで、格好こそ兵隊の服でも、手には蒸した饅頭や子供の土産を持っていた。彼らも、家に帰れば誰かの家族なのだった。


 デューロの実家は谷から続く斜面の中ほどにあり、彼が言っていた通り、旅館を営んでいた。

 といっても、この集落にはざっと見ただけでも十軒は旅館がある。集落の建物が全部で四十棟ぐらいであることを考えれば、かなりの件数であろう。

 なおデューロの話では畑や放牧に便利な場所に家を構えている者もそれなりにいるらしい。

 彼は道すがら、知り合いの顔を見付けると自分から声をかけていたから、デューロがマサルたちを案内しながら歩いているうちに、親切な人がデューロの両親に息子の帰りを告げに行っていた。

 マサルたちが旅館の前に着いたとき、落ち着か無さそうな様子で外をうかがうオークと目が合った。

「あっ! 親父!」

 デューロに呼ばれた相手は、びっくりした様子で一度顔を引っ込めたが、すぐに外に出てきた。

 デューロの父親はマサルと同じオークではあったが、マサルよりも毛深く、猪に近い印象であった。

 それを見たリコが、ため息交じりに呟いた。

「へえ。お前んちの親父、結構男前なんだな」

「さすが姉ちゃん、オークを見る目があるな」

 マサルもリコには及ばないにしても、デューロの父親が背筋のぴんとした偉丈夫なのはわかった。顎や頬もしっかりしていて、以前にテレビで見た漁師を思わせる雰囲気を漂わせていた。

 体格だけはマサルよりも一回り小さいが、これは山岳部のオークにはある程度共通している特徴らしい。もっとも、マサル自身がオークの中でもかなり大きい部類であることは比較する上で注意が要るだろう。

 さて、デューロの父親は息子よりも先にこちらに挨拶して、ぺこりと頭を下げた。

「うちのと一緒に来たということは、バラニ様のお知り合いでしょう? 何かお仕事があるのかもしれませんが、まあ、まずはうちでくつろいでください」

「親父、仕事なんて無いよ。この二人は新婚さんだから、俺が観光の案内を任されたんだ」

 ということにしておこう、と事前に打ち合わせはしてあった。

 デューロの父親は疑ってかかるようなことはせず、ふむ、と自分の顎を撫でた。

「申し遅れました。私はバイザといいます。何かあれば気兼ねなくお声がけください」

 律儀に頭を下げ直した父親を見る、デューロの目。

 それは明るい輝きをまとっていて、彼が父親のことを尊敬しているのはマサルにもよくわかった。

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