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先行きを占うのは迷わないため

 この世界の人たちはどうやって方角を確認しているのか。

 マサルは気にはなっていたが、その答えが今回の旅でようやくわかった。


 四人での夕食を楽しんだ翌朝。

 昨晩のうちにリコが朝に食べる用の握り飯を作っておいたので、少し固くなったそれを冷や汁に浸してささっと食べると、一行は本山を出発した。

 本山がある辺りは岩肌が多く、この一帯をぐるっと回り込んでようやく登山道へと至ることができる。

 その登山道の手前で休憩をしていたときに、デューロがきょろきょろとしたと思うと、枝ぶりの良い針葉樹を見付けると、その枝に重りを紐で吊るしたのだった。

 何かのおまじないかと思って見ていると、やがてその重りがゆっくりと円を描き始めた。

 そしてその円が徐々に傾いていき、それを見たデューロが太陽の位置と日付帳を比較して、うんうんと頷いていた。

「陽気の方向はあっち。太陽の位置とのずれもないし、大丈夫そうだよ」

「おう、ありがとな」

 デューロとリコのやり取りにマサルはわざと素知らぬ顔をしておいて、登山道に入ってから、そっとリコに訊ねた。

「さっきのって、方角を確かめてたの?」

「ああ、そうだよ……って、お前が見るのは初めてだったかな」

「俺のいた世界だと、磁石を使うんだよね」

「いや、うちらもそうだよ」

 えっ、という顔を思わずしてしまうマサルである。

 少しがっかりしたが、考えてみれば太陽があるのだから、この世界だって宇宙に浮かぶ天体の上にあるはずである。そこまではっきりとした理論が組まれてるかはともかく、「磁石の針を使えば同じ方向を指す」というのは発見されているのが自然なのだった。

「さっきデューロの坊主がやってたのはな、山の中に住んでるエルフとかオークがやってる方法なんだ。山の天気って変わりやすいだろ? 住んでる奴もちょっと油断すれば死んじまうんだ。だからああやって、方角と同時に木々や山々の機嫌も確認するわけさ」

「占いを兼ねてるわけか……」

「かなり当たるんだぜ? 軍隊でも山越えをするときは必ずデューロみたいな育ちの奴を雇うしな。強引に進みたがるやつのせいで遭難するのも珍しくねえけど」

 どこの世界のどんな知恵も、最後は役立てようとする側の謙虚さが大事らしい。

 デューロの足取りは軽く、家に帰れるのがよほど嬉しいらしかった。それでも時折、こちらを振り返っては歩く速度を緩めてくれる。

 おかげでこちらもペースを乱さずに進むことができ、他の山々へと繋がる結節点となってる山の尾根まで、日が高いうちに着くことができた。

「ふう〜……こうして見ると、結構登ってきたんだなあ」

 登ってきた道を振り返ってみれば、今朝までいた丘の辺りが、手のひらに乗りそうな大きさになっていた。

「ここから先は見張所と休憩所を兼ねた山小屋が沢山あるから、ゆっくり行ってもどうとでもなるよ。兵隊さんが詰めて無ければ良いんだけど……」

「なんだよ、こんな所にもいるのか」

「この尾根をずーーーーっと行けば、ジュカの王都にも行けるからね。前は兵隊さんがそこそこ宿を使ってくれてたんだけど、今は砦がいくつか出来たとかで、来てくれないらしいって、親父が手紙で書いてたな」

 オークのわりに筆まめな父親らしい。いや、息子がかわいいのか。

 マサルは少し、自分の親のことを思い出した。特に優しく育ててもらった覚えは無いが、息子が急にいなくなって悲しまないような親でもない。

 果たして自分は戻れるのだろうか。そんなことを考えながら風景を眺めていたら、リコに指を握られた。

「どうした? 息でも苦しいのか?」

「ああ、いや。リコの親父さんが見付かると良いなと思ってさ」

 談話室での司教との会話で、デューロもそこら辺の事情については心得ている。

 リコはマサルが眺めている方向を自分も見ながら、呟いた。

「正直さ、会っても困るって気持ちもあるんだ。戻ってきて欲しいとも思わないし」

「そうなの?」

「こんな所まで付き合わせておいて今更だよな。でも、まあ、今何してるか知れれば、それで良いんだ。あたしらをほっぽってさ。そうすりゃ愛想が尽きるだろ?」

 リコにとっては、大事なけじめらしい。そこら辺、頭のやけに回る姉のイベよりも頑固といえば頑固である。ただ、それが彼女の優しさの源泉であるのも確かだろう。

「まあ、見付かるかどうかもわからないんだし、気楽に行こう」

 それは自分の将来に向けての言葉でもある。

 マサルは鼻を鳴らして、腰を上げた。

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