妹の芋料理
デューロはバラニがマサルの所にいることを上階にいた修道士から言付けされて、後から自分もやってきた。
リコは多めに食材を煮込んでくれていたから、マサルがおかわりをしても足りる量があった。
ここら辺は芋類がとにかく沢山出回ってるらしく、恐らくは兵隊の需要に合わせているのだろう。
芋は芋でもマサルやリコが集落で食べていたのは里芋に似た種類であるが、こちらのものはじゃがいもに近い。
そのままでは毒の成分が多いために、これらを適当なサイズに切って、天日干しにしておく。これは大切な仕事で、子供たちが昼間に手伝っている風景をよく見かける。
それを蒸した後に塩漬けされていた肉と一緒に煮込んで、その日手に入った適当な野菜を加えて柔らかくなるのを待てば、完成となる。
なおこの地域は昔から茄子に似た食材を漬物にしたものが名産だそうで、バラニの好物だという。
デューロはそれを下に来るときに持ってきてくれて、みんなにも分けてくれた。
さっぱりとした漬物は芋の煮物とよく合い、バラニが気に入るのも納得できた。
なおテーブルや椅子といった気の利いたものはないため、各々が適当に座り込んで食べている。
グループごとに点々と鍋を囲んで食べている風景は、ここが信仰の拠点であるかどうかに関わらず、大切なものにマサルには思えた。
「そういや昔、うちらの集落だと、オークがよく腹壊してたとかでさ。何食っても平気だろうって何でも毒抜かずに食ってたせいらしいんだが、それで女房のエルフが食い物や薬に詳しくなったんだと」
リコが珍しく豆知識みたいなことを言い出す辺り、料理をするのは楽しいらしい。思い出してみれば、姉のイベといるときはイベが全部やってしまう。
「毒か……俺も少しは食べられるものと食べられないもの覚えないと、料理も作ってあげられないよな」
「お前、料理できんのか!?!!」
「あのな……」
そこまで言われると心外である。
黙々と食べていたデューロが、くすくすと笑った。
「姉ちゃん、オークだって料理できんだぜ? 俺の家じゃ、親父が料理担当だし」
「じゃあ、母ちゃんは何してんだよ」
「客の相手してんだ。うち、旅館だからさ」
「へえ……じゃあ、泊まらせてもらう分には都合が良いな」
リコのその言葉に、デューロが目を丸くした。すぐに意味を理解したのだろう。
頭が良い子である。彼は口元を拭ってから、隣で食べているバラニに目を合わせた。
「お、俺も行って良いんですか?」
「ええ。もちろんですよ」
バラニを尊敬しているとはいえ、自分の家に久々に帰れるとなれば、子供なら嬉しいだろう。
どうせならバラニも来れば良さそうなものだったが、彼女は仕事が残っているとのことだった。
「俺がいない間に、また宣教に出ないですよね?」
「ええ。ちゃんとあなたの帰りを待っていますよ」
デューロにそう答えたバラニは、とても優しげだった。