オークとエルフの体位って結局どうなるのさ
巨大な箪笥みたいに上へと木造建築が続いている本山の根本周辺では、いくつものテントや小屋が連なって市場が形成されていた。
その賑わいは数百メートルに渡って人通りが絶えないといった盛況ぶり。
「これでも祭のときと比べたら全然なんだ」
案内してくれているデューロが、誇らしげに語った。
バラニは本山を任されている司教に色々と報告をしなければならないとかで、『箪笥』の上の方まで行っている。
種族は圧倒的にエルフが多かったが、たまにオークの姿を見付けると、マサルは笑顔で手を振った。すると向こうも手を振り返してくれたので、嬉しさが湧いたものだった。
「お前もすっかり、オーク気分だなあ」
リコがからかうのを聞いて、デューロが不思議そうにリコとマサルを見た。それはそうだろう、マサルはどう見ても根っからのオークでしかないのだから。
「ああ、こいつはな。今まで集落を出たことが無くってさ。オークらしさってもんがいまいちわかってないんだ」
「ふうん……じゃあ、俺の方が先輩だね。俺、前に山の方から出てきたんだ」
彼によると、ここら辺は山々に集落が点々とあるらしい。ジュカの国はとにかく山が多くて、集落の数も馬鹿にならないようだ。
「ここに来たのは、何か事情があったの?」
「ううん、たまたまバラニさんと親父が知り合いだっただけさ。うち、宿屋をやってんだけど、集落に温泉があって、バラニさんがたまに来てくれてたんだ。で、宿の手伝いをし始めた俺を見て、折角なら修道院で学んでみないか……って」
「へえ……バラニさんって、やっぱり立派な人なんだね」
「うん!」
気持ちの良い返事を聞けて満足だったが、マサルは別にデューロに合わせてあげたわけではなく、心からの感想だった。
デューロと打ち解けられた気がしていたマサルは、リコの落ち着きの無さに気が付いた。
「なんかそわそわしてるけど、どうかした?」
「便所ならあっちだぜ」
マサルとデューロに仲良く言われて、リコは怒った。
「ちげーよ! ああ、いや、ほら、荷物を全部、泊まる場所に置いてきただろ? だから……」
全部というのは、言葉通りの意味であって、リコの愛用の肉切り包丁もである。
いくらなんでもこの信仰の中心地で無闇に、あんな武器を持ち歩くわけにもいかない。マサルもガナの街で買ったばかりの斧などは部屋に置いてきてある。
あの部屋は鍵もかかるし、バラニは本山の一部の人間だけが知ってる床下の収納を見せてくれたので、防犯についてはほぼ心配がない。
しかし、それはそれである。リコが落ち着かないのは、もっと単純な話だった。
「武器が無くて心細いなら、俺の肩に乗る?」
「馬鹿っ、子供の前でそんなことしねえよ」
デューロがいなかったらしたのか。その質問は意地悪さが勝っていたので、口には出さないでおいた。
そのデューロが、面白そうに笑った。
「はっはは、おっさんと姉ちゃん見てると、うちの親父とお袋を思い出しちまうよ。うちも親父がオークで、お袋がエルフなんだ。親父がとぼけたこと言うと、お袋がいつも怒ってさ……」
エルフと結婚するとエルフの子供しか生まれない。ガナの街で出会った人はそう言っていた。
デューロはほんの一瞬、視界の端をかすめる一つの山を見た。多分、彼の故郷がそちらにあるのだろう。
しかし彼は寂しそうな顔一つせず、すぐにこう言った。
「おっさんたち、新婚さんって言ってたよな。早く子供作れよな!」