指が太いのは想像以上に大変
ストローを作るだけなら、実はとても簡単である。
水辺に生えてる脂っ気の強い植物の茎は空洞になっていて、適当に引っこ抜いて切ってしまえば、ハイッ完成〜、となる。
しかしこれでは使い捨てであるし、何よりオークの口には細過ぎる。
マサルとしては、自分とイベ、それとリコのもので、大きさは変えても造り自体は同じにしたかった。
その場合、妥当な結論は「鋳型で作る」である。特別硬い金属である必要はないので、加工は容易だ。
欠点としては、素人の手作りには不向きなことだろう。「簡単にできそう」と「簡単にできる」の間には大きな溝があることを忘れてはいけない。
以上の点から、材料、技術、手間をこの集落で実現しようとした場合、最終的には木製品に行き着く。
キンカおばさんが提案したのは、ほとんど紙のように薄く削った木材と、この森に生えてる木の中でも特に丈夫な葉を、糊で巻き付ける方法だった。
我々の世界で例えると手巻き寿司や、チラシの紙でちゃんばら用の刀を作るのを想像すると良い。
「木材だけでも良いんだろうけど、口を付けるもんだからね。陽気が強い方が良いだろう」
陽気というのは、この地域では清潔さに通じる概念である。消毒や殺菌の知恵がまだ体系化されていいないため、そういう考え方になるのだろう。ちなみに、陽気の逆は陰気となる。
さて、話を聞いてる分には簡単そうだが、これもまたそうそう簡単にできるわけではない。
二つの材料を組み合わせる以上、それなりに試行錯誤が必要だった。
特にマサルの……というかオークの指だと、細かな作業はかなりの困難さを伴う。
マサルはまず、自分の分で何度も練習をして、納得のできるものが完成してから、イベとリコのものに取り掛かることにした。
仮の芯棒となるものに木材を巻き付け、その外側に葉を巻き付ける。それだけの作業だが、糊が乾いて、芯棒を抜いて、実際に水を吸い込んでみて……という一連の流れを繰り返すと、かなりの時間がかかった。
更にそこからイベとリコのものを作らなくてはならず、最終的に納得ができるものができた頃には、朝方になっていた。
照明用のランプに照らされる中で、マサルは目をしょぼしょぼさせながらも、なんとか完成にこぎつけた。
マサルは「できた!」 と大声を出すこともなく、ただただ深くため息を吐いた。
キンカおばさんはといえば、ある程度の目処が立って、後は納得がいくまで繰り返すだけとなった段階で雑魚寝していたが、マサルの大きなため息に起き上がった。
「ん〜? できたのかい?」
「はいっ、ありがとうございます」
「感謝されるほどじゃないさ。冬用の備えや加工用に取っておいたもんを使わせてやっただけだからね」
眠そうな声で言ったキンカおばさんだったが、やがて考えを改めたらしい。
指をぱちんと鳴らして、マサルに提案した。
「私にお礼はいいからさ、早いとこ、イベかリコの子供が見たいな〜?」
「は、ははは……」
もう出来てるかもしれないのだが、何せエルフの妊娠の仕組みをマサルは知らない。
妊娠して翌日に生まれる可能性だってゼロではないのである。
今更のようにそんなことを不安に思いつつも、ついつい、想像の翼は羽ばたいていた。
自分の子供にも、ストローを作ってやる日が来るのだろうか、と。