表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/123

類推と予断は投資に近い

 結婚もした。

 セックスもとい交尾もした。

 そうしたことでカーツのことを上書きできた気になっていたが、やはりそういうわけにはいかないのか。

 バラニは少しばかり顎に指先を当てて考え込んでいたが、やがて話を切り出した。

「人の気持ちというのは、自分で思っているほど簡単に切り替えられるものではありませんから。ふとした拍子に、溶岩がどろどろと湧き出てきて、心が焼かれることもございます」

「……バラニさんもそういう経験が?」

「うふふ、どうでしょうね」

 誤魔化された気もしたが、今の話と関係ないのも事実である。


 とりあえず、マサルは今後の予定を全てリセットすることにした。

 集落の神との対話が、どんな影響をイベに与えるかわからない。自分のことだけ心配していられる状況ではなくなっているのだ。

 そんなマサルの表情を見て、バラニが言葉を漏らした。

「自分の目で見るまではにわかには信じていませんでしたが……この森のオークの方々は、本当にエルフのことを気にかけてるんですね」

「そんなことないですよ。若いオークは俺以外、みんな森を出ちゃったそうですし」

「おや? 他人事みたいにおっしゃいますね」

「あっ、すみません、言い間違いです、言い間違い」

 咄嗟に誤魔化したのは無駄ではなかったようで、バラニは微笑みを返してきた。

「でもね、族長さん。出て行ったからといって、必ずしも愛想を尽かしたかなんて、わからないことですよ。さっき言ったことと重なりますが、その人のことは、その人でさえもわからないことがあるんです」

 イベが倒れたとき、一緒にいてくれたのがバラニで良かった。

 マサルはそう考え始めていたが、今回の出来事は、それだけで済むようなものではなくなろうとしていた。

 バラニにしてみれば、マサルを元気づけるための雑談のようなものだったのだろう。ただ、思いがけない事柄を含んでいた。

「随分前ですが、私のいる修道院に一人のオークが訪ねてきたそうです。大切な人が病気になったことで、いてもたってもいられずに、故郷を旅立ったと。でも、それは自分が自由になりたかっただけなのではないか。そんな苦悩の重荷を、今の司教様が……あれ? でもこれって……まさか」

 バラニも気付いたらしい。それはそうだ。

 ついさっき、その「大切な人」らしき存在ととても良く似たエルフの話を聞いたばかりなのだから。

 彼女が戸惑っている間に、家の中からリコが険しい顔で出てきた。

 その険しさは、不機嫌さとも悲しみともつかないものだった。

「今の話、確かか?」

 それは、自分の父親の話だ。彼女はそう確信しているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ