身内との猥談は意外とハードルは高い
水浴び後のマサルは、出陣前にイベに洗ってもらったときと同じか、それ以上に落ち着かない気持ちだった。
泉の冷たい水を浴びたにも関わらずのぼせてしまったマサルが、リコと以前に戦った広場の丸太に背中を預けて休憩していると、そのリコがやってきた。
彼女はキンカおばさんの家で気楽に酒をやっていたはずだが、マサルを見付けるとほっとしたような顔をして、膝の上に乗ってきた。
夕方のここは風がよく通って、少し汗ばんだリコの髪の毛が肌に触ると、マサルは少しくすぐったかった。
リコが肩に担いでいた袋の中には果物がごろごろと入っていて、その中の一際大きなものを選んで、マサルにくれた。
二人でもしゃもしゃと食べ始めてからじきに、リコがため息交じりに話した。
「はあ〜……まさかあんなに根掘り葉掘り、初夜のこと聞かれるなんて思わなかったよ……」
「ああ、そういう……」
キンカおばさんからしたら、リコは昔からかわいがってきた子である。
その子が新婚旅行から帰ってきたら、土産話は相応に期待するというものだった。
「いやまあ、あたしもさ、最初は楽しく話せてたんだけど、あんたのその、あれが……その……」
話の内容に猥談の性格が強くなってきて、嫌気が差したらしい。
「大変だったね。逃げてこられたなら良かったじゃん」
「ああ」
無理に引き止めるようだったら問題だが、そうしなかったということは、キンカおばさんも少しは反省をしてるだろう。
マサルは二個目の果物を口に放り込む前に、リコに訊ねた。
「リコの仕事、傭兵って、嫌なことも沢山ありそうな気がするんだけど、それは平気なの?」
「平気でもないかな。最初は良くても戦況の悪化でガラの悪い部隊に行かされて、犯された奴なんて珍しくもないし……大体は、義理堅いやつほど損するんだ。給料分だけ働いたら、さっさと逃げちまえば良いのによ」
少し湿り気のある口振りからして、知っている人のことも含まれているのだろう。
マサルがそれ以上は聞いても良いかどうか躊躇っていると、リコは続けた。
「ガナの街の、ダイアナっていただろ。アンの部下……っていうか実の姉妹だったっけ? とにかくあいつに言ったんだよ。あたしみたいな奴がいた方が集落のためになるって」
マサルが思うにリコの良い所は、彼女は多分自覚してないが、なんでも話してくれる所だ。
そんな彼女が、少しでも自分に多くのことを話そうとしてくれている。
イベは今頃、自分の家で薬草についての話をバラニと楽しくしているだろう。
マサルはあちらのことは一時放っておいて、リコの話を落ち着いて聞くことにしたのだった。