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進むも戻るも言語化はしておけ

 墓地から集落までの移動は、これまでの旅の中でも特に楽なものになった。

 マサルたちが食事をしていると、集落のオークとエルフ、合わせて六人ほどが荷物運びのために来てくれたからだ。


 留守番をしてくれているキンカおばさんはその中にはいなかったが、覚えのある顔のオークのじいちゃんが、事の次第を話してくれた。目立つ向こう傷が額にあるから、彼の顔は覚え易い。

「この間は上手く追い払えたけどよ、うちんとこが前より弱いことには変わりねえからな。見張りは欠かしてねえんだよ」

「ってことは、この宣教師さん……バラニさんがキャンプしてるのも知ってたんですか?」

「ああ。三日前からだな。フージの人だってのは格好でわかったから、危ないことが無いよう、一応気にかけてたんだぜ?」

 最後の台詞は、半分はバラニに向けられたものだった。

 そのバラニはといえば、イベが作ってくれたスープの残りを米に吸わせて、余さず食べていた。

 食欲があったのは彼女だけではない。残っていた保存食も使い切るために、パンや米でスープをいかに食べるかという大喜利大会と化していた。

 ちなみにマサルからすると、米の方が食べやすかった。のんびりする時間が作れれば、オークに合う料理を自分なりに作ってみたい気もする。


 荷車が通れる幅の、集落へ続く道は一本だけ。先を進む荷車隊の後を、マサルたちは付いていく。

 マサルは頭上をかすかにちらつく陽光と、常緑樹の枝を見上げながら、ふと呟いた。

「街に行った後だと、森がやけに大きく感じられるなあ」

「いえ、実際にこの森は大きいんですよ、族長さん。ここら辺の地域でこの規模で残っている森は、ジュカの国以外ではほとんど無いんです」

「そうなんだ。バラニさんの国の森と比べると、何か違う所とかある?」

「……あります」

 神妙な物言いに、マサルだけでなくイベやリコも耳を立てた。

「食べられる実を付ける木が多くて、羨ましいです。木の根や幹、土も、根菜やきのこには向いてるし……豊かな場所ですね、ここは」

「わかります!?」

 イベが出した大声に、荷車隊の方まで足が止まった。

 マサルが「なんでもないよ」と手を振ると、また隊列が動き出した。

「す、すみません。でも今じゃエルフでも、森のことより外のことの方が詳しい人ばかりなので……」

「まあっ。それはわたくしたちもですよ。修道院でも、お酒造りや新鮮な魚のことばかり。それはそれで大切なことなのですけれど……森の知識があってこそ、エルフ本来の長所も短所もわかるのです」

「そうなんですよね」

 格好こそ白と黒で全然違うし、胸の大きさもかけ離れているが、二人は気が合うらしかった。


 そこでマサルは、思い付いたことを提案した。

「村に着いたら、みんなで体を洗いなよ。汚れも疲れも取れるだろうしさ」


 この場合の「みんな」とは「女性陣で仲良くやってね!」という意味である。

 マサルは入っていない。というか、入ると思ってない。

 そう、思ってなかったのだ。

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