献身を良い意味で使おうとしたらエロくなる
イベが作ってくれた料理は、彼女が好んで使う森のスパイスの他に、街で仕入れてきたものも加えた、煮込み料理だった。
エルフやオークの料理にはスパイス中心のものが多いらしいことにマサルは薄々気付いていたが、種族は関係なく地域の特徴の可能性もあった。
泊まっていた宿のご主人と奥さんからスパイスの使い方や食材の仕込み方を教わっていたとかで、バラニがいても大して気にはせず、ふんふんと鼻歌まじりに作ってくれた。
それは道中で何度かマサルが歌っていたものだったので、彼は少し気恥ずかしかった。
さて、イベとリコが姉妹だとわかった段階で、バラニのテンションが一挙に上がった。
「で、ではでは!? お二人は姉妹で同じ旦那様に!? ああ、なんて献身的なのでしょう!! 古き神の森のエルフは昔ながらの純朴さがあると聞いておりましたが、これほどとは思いませんでした!」
彼女の大げさな言い方をそのまま受け取るわけにはいかないが、集落のエルフが街や街道などで見かけるエルフと少し雰囲気が違うというのは、マサルにもわかる。
彼女たちには人懐っこい所があるのだ。
他のエルフだと、カフェやバーにいるときも他人から距離を取っているし、店員などに対しても結構さばさばしているのが印象的だった。
しかしそれを言うなら、バラニも相当に変わり者な気はする。
「そう言うあんただって相当に変わり者だろ?」
「そう、それな……って、リコ……」
「あ? なんか悪いこと言ったか?」
全く同じことを考えていた、とはこのタイミングで言い辛い。バラニが「本当に仲がよろしいんですね!」と黄色い悲鳴をあげかねないからだ。
咳払いをしたのは、イベだった。
「妹は正直なのが取り柄でしてね。ところで、これからどちらに行かれるんですか?」
「もちろん、集落までご一緒しますよ!」
そんな気はしていた。バラニのこれまでの行動を見ていると、偶然あそこで出会ったというよりは、目星を付けて待っていたはずなのだ。
焚き火用に丁寧に穴が掘られていたし、そこに溜まった灰や炭も一日程度の炊事や夜営の量ではない。
そこまでしてマサルたちを待っていた彼女が、改宗の誘いはあっさりと終わらせた一方、集落には付いてくるという。
マサルとイベ、リコの間でにわかに彼女の目的に関して緊張が走った。
が、当のバラニは堂々と訴えてきた。
「実は全然、水浴びをしてなくて! 食べ物も、もうほとんど無いんです! 助けてください!」
ああ、この人、あれだ。エルフとしてどうこうっていうか。
目の前のこと以外はどうでもよくなって、後で困る人なんだ。
マサルがリコにご飯の提案をしたときにバラニが微笑したのも、二人の関係を微笑ましく思っただけじゃなくて、きっとお腹が減っていたからで……料理が煮え始めてからテンションが高めだったのも……。
同情とも呆れともつかない感情を顔に出したマサルに、同じような顔をしたイベとリコが頷き返した。