他人の買い物は娯楽性が高い
マカ・モーカルからドレスの類はもらっていただけに、二人の興味は集落でも着られるような軽めの普段着や、自分の足に合う靴、手袋などだった。
ドヤ街ではそういったものの方が店に揃っていたのもある。
二人は初めての姉妹での買い物を楽しんだらしく、たっぷりと時間を割いていた。
「マサルさんは何か欲しいものは無いんですか?」
イベがそう言ってきたのは、陽もそれなりに傾いてきた頃だった。
明日朝には街を発つと思って、しみじみと行き交う人々を眺めていたマサルは、頭をぽりぽりと掻いた。
「って言われても、着るものはさっき買ってもらったしなあ」
姉妹が「これ似合いますよ」「似合う似合う」と見付けた着物をマサルに着せて、ほぼ強制的に買ったものである。
集落から着てきた伝統衣装はやや派手目だったので、落ち着いた亜麻色の着物は旅には良さそうだった。
マサルはこれからしたいことを頭に思い浮かべて、それに必要なものを一つ思い付いた。
「木工用に使える小さめの刃物が欲しいかな。持ち歩けるやつ」
武器に使いたいわけではない。集落に帰ったらリコとストローを作る約束もあるし、旅には必要だろう。
「そういうのでしたら、カーツが使っていたものを取ってありますよ」
「あっ、そうなんだ。出てくるときはバタバタしてたから気が回らなかったけど、それで良いかも」
と、イベとの間で話がまとまりかけたところで、リコが待ったをかけてきた。
「親父の包丁を使ってるあたしが言うのもなんだけど、そういう道具は自分で納得がいくのを選んだ方が良い」
「それも一理あるなあ」
カーツの遺品を使うのに全く遠慮がないわけでもないし、それが手に合うかどうかもわからない。
どうせ街に出てきてるのだから、ここで見て、買った方が良いだろう。
「よし、たしかあっちの通りに刃物屋があったはずだから、そこ行こうぜ」
……ということでマサルは刃物を買うことになったのだが、思っていたのとは違うものを買う羽目になった。
買い物に寄った刃物屋のオークの大将が、マサルをいたく気に入ったのが発端だった。
「あんた、良い指してんねえ! 長めだけど節々が太くて! 女も悦んじまうのが働き者の理想の指ってのが死んだ爺さんの口癖だったなー!」
大将がわかってて言ってるのかどうかはともかく、イベとリコはそれとなく目を伏せていた。
「でだ! あんた、木工用のがほしいって!? これとかどうだい、これ!」
そう言って見せてきたのは、マサルの前腕ぐらいの長さの柄の、いわゆる万能斧だった。刃の部分は鈍く光っていたが、よく鍛えられてるのが素人目にもなんとなくわかった。
念の為リコにも確認してもらったが、悪くはないらしい。
それを見ていた大将が、商売上手を発揮してひと押ししてきた。
「お客さんたち、まだまだだねえ。斧は刃も大事だが、やっぱり柄だよ、柄。これがなんと、めったに出回らない、世界樹の枝さ! あんたがうっかり踏んじまっても折れねえよ!」
「ふうん……?」
話半分に聞いていたマサルだったが、実際に手に取らせてもらうと、たしかに持ち具合は悪くなかった。
体験学習で使った程度しか斧の経験は無かったが、試しに店先の薪を割らせてもらうと、スコンと一発で割れた。
それを見ていたリコが、マサルに耳打ちした。
『世界樹の枝は庶民の取引が禁止されてんだよ……だから、かなり貴重だぞ』
『えっ、じゃあ、お高い?』
『多分な。まあ、良いものなのは確かだけど』
マサルはとりあえず考え直すことにしたが、大将に斧を手渡そうとしたとき、イベが止めたのだった。
「マサルさん、それ欲しいですか?」