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人間関係は忘れられても上書きはできない

 領主館に設置されていたボイラーは湯沸かし器やセントラルヒーティングの機能も備えており、オークに留まらずこの世界の技術としては、先端に類されるものであった。

 火事の熱で変形した部分が圧力に耐えられなくなり、大爆発を起こした。

 ……というのが爆発現場を確認した技術者たちの結論であるが、それは後日の話である。

 爆発の直後は飛び散った破片や爆風で怪我をした消防隊のオークが街まで運ばれるなどしたが、結果として炎が消し飛び、延焼の危険も無くなったのだった。

 消防隊に死者は無く、後遺症が残る怪我を負った者はいなかった。

 領主であるアン・ロースと、現場にいたと思われるビロク・モーカルについては、夜が明けてから捜索が行われたが、数日がかりで瓦礫が撤去されても、行方不明のままであった。

 死亡した。そう判断すべきであった。


 捜索が始まったばかりの頃、つまり事件の翌朝、マサルとイベ、リコは宿の部屋にいた。

 イベはまだ眠っていたが、ベッドでの寝息は安らかなもので、特段の心配はいらなさそうだった。

 それでも姉を心配したリコは、濡らした布で姉の唇を拭って、少しでも水分をとらせていた。

 タマニとの闘いでドレスはボロボロになってしまったが、献身的な姿が窓からの朝日に照らされる姿は、とてもやわらかな印象をマサルに与えた。

 マサルはベッドをイベにだけ使わせて、自分は窓際の壁に背中を預けて、座り込んでいた。

 疲れが出て少しぼうっとしていたマサルに、リコが声をかけた。

「今からでも行って良いんだぜ?」

 火事のあった場所に、である。

 アンとダイアナ、そしてマカは、後からやってきたタマニと一緒に、さっき出かけていった。

 暗さのある過去について聞いたにも関わらず、タマニは「妹が増えたのは嬉しいけどな」と語っていた。そういう図太さでいえば、あの一族で一番なのかもしれない。

 それを思い出したマサルはかすかに笑って、リコに答えた。

「約束したろ? リコの話を聞くって。まあ、イベさんがいるけどさ」

「……いや、別に姉貴がいても良いんだ。聞かれたとしても困るわけでもないし」

 彼女は本題に入る前に、今回の事件について触れた。

「なあ、アンとダイアナが姉妹ってことは、兄弟も親父も、領主も、全員親戚ってことになるんだよな」

「まあ、そうなるよね」


 昨晩、火事の爆発の件で動揺があったが、それでもマカは話を続けてくれた。

 アンを監禁……いや勾留というべきか、そうしておいてから、ビロクは長男であるマカに経緯を話したのだという。

 商人仲間として一緒に成り上がった前領主とビロクは、しかしマリーを取り合うことになった。最終的にマリーの子供の父親が誰かに関わらず、前領主は全てひっくるめてマリーを愛することを誓ったのだ。

 そんな人が早くに亡くなってしまったことで、歯車が狂ってしまった。

 人には明かせぬ秘密を抱えたマリーは裏山の館に引きこもり、ビロクはマリーを想うが故に、彼女を反故にするような方策をとることができなかった。

 だが、娘のアンの将来をマリーが勝手に決めてしまったことだけは、ビロクの眠っていた激しい感情を蘇らせてしまったのだった。

 彼はアンを人質にしてでもマリーと話を付けると息子のマカに告げて、領主館へと向かった。

 後から考えればその告白は遺言に等しかったのだが、実務の方に頭が回るマカは父親の情緒にまでは考えが至らなかったと、後悔を口にしていた。

「自分が大人になる前の親のことなんて、わからんものだな」

 その言葉は誰に対してのものかはわからなかったが、もしかしたら、父親への手向けの言葉かもしれなかった。

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