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親戚は自分で思ってるより多い

 宿の前は人でごった返していた。

 消防用の装備……斧や防火布が通りに並べられ、宿が仮設の基地となっていたからだ。

 そこにいた年嵩のあるオークにマカ・モーカルが訊ねると、彼は丁寧に説明してくれた。流石に街の有力者が一緒だとは話が早い。

 消防隊(といっても事実上は自警団なのだが)は火災現場である領主館までに、後方基地と前線基地を設置しており、この宿が後方基地となっているとのことだった。

 一箇所に全てまとめてしまうと、救護者が出たときや人員交代などで寸詰まりを起こしてしまうだろうから、妥当なマニュアルといえた。

 宿に残していったメイドたちは宿の夫婦と一緒に食料や飲料水を用意していたが、メイドたちはアン・ロースやダイアナの姿を見付けると、大声を出した。

「ああっ、アン様! ご無事で!!」

「ダイアナはどうしたの? 怪我をしたの?」

 当初はアンの方が憔悴していたのが、宿に着く頃にはダイアナがアンに体を支えられていた。

 というより、アンの責任感が想像以上に強かったと言うべきか。

 彼女はダイアナを食堂まで連れて行って椅子に休ませると、みなに頭を下げた。

「みなさん、ごめんなさい。私のせいで心配をかけてしまいました」

 それを聞いた者達はそれぞれにそれぞれの感情を抱いたようだった。

 マカは上等な座布団を譲ってもらってゆったりとあぐらをかき、顎に手を当てている。

 まだ意識の戻らないイベは窓際の長椅子に寝ており、リコがその下の地べたに座って、手を握ってやっていた。

 マサルはアンに対し、単刀直入に訊ねた。

「何が、あったんですか?」

「……自宅でマサル様と別れてから、またすぐにお話したくなって……はしたなく思われると、なかなか声をかけられなかったんです」

 そうして後を付けているうちに、商工会議所の裏でのマサル、イベ、そしてリコ、三人の会話を、耳にしたのだった。

「商工会議所の裏って……え!? あれ聞いてたの!?!!

 内々の、思いっきり恥ずかしいタイプの話題である。

「はい、あれを……」

「あれって、アレか……」

「アレです……」

 ただのセックス宣言を部外者に聞かれることほど辛いものはない。

 が、この場合はアンの方がどうも辛かったらしい。

「私が縁談で浮かれてる一方で、マサルさんはイベさんとリコさんのことをどう愛するか、真剣に考えていらっしゃった。それがわかって、私は途方に暮れたのです」

 そこまで事細かに説明されると余計に恥ずかしいのだが、お嬢様というのはそういうものなのかもしれない。

 気の抜けたアンはそれから、とある人物に出会ったのだという。

 その人物とはマカのことに違いない。

 マサルだけでなくリコも、マカを見たが、彼は顎を擦っただけ。

 しかも、アンが語ったのは別の人物だった。

「マカ様とダイアナのお父様……ビロク・モーカル様です」

 マサルは面識の無い相手だったが、その人がアンを監禁し、更には今、火事になっている館にいるらしい。

 それについて、マサルは正直な感想を述べた。

「そんな立場のある人が、自分でアンさんを?」

「私もそれがわからなくて……ただ『悪いようにはしないから、時間をいただきたい』と強く仰っていました。私もお母様に暗い顔を見せたくなかったから、私もあまり抵抗せず……」

 つまり、正確には誘拐や監禁ではなかったようだ。

 しかしだからこそ、こんな大事に至ってしまったことが不可解である。

 ここまで話が整理された段階で、いよいよマカが声を出した。

「私も父上の口からはっきりしたことを聞かされたのは、今日なんですよ」

「その言い方だと、薄々はわかってたみたいですね」

 珍しくマサルはとげのある言い方をしたが、知らないうちに多少の苛立ちが起こっていたのだった。

 マカはマサルと初対面のときから『族長殿』と呼んでいたし、それなりの情報網を持っている人なのだろう。

 そんな人がここまで大事になるまで後手に回ったというのは、片手落ちというものだった。

 ただしそうなった理由については、十分に同情できるものであった。

「まさかと思いながら、ずっと放置してしまいましたからね……面目ない」

 そう謝ってから、彼は一度、ダイアナとアンの二人を見た。

「お前たちは、姉妹なんだよ。本当のな」

 その言葉が内包する多くの事柄をすぐに理解するのは、不可能だった。

 誰かが何かを口にしようとしたが、それも叶わなかった。

 裏山の方から、ドン、という大きな爆発音が聞こえたからだ。

 それは館のボイラーが爆発した音だとわかったのは、随分後のことだった。

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