妹の道は妹
「お前さ、兄弟とか姉妹っている?」
「? まあ、いますけど……兄様が二人、下に弟が三人」
リコの突然の、それもアンの捜索とは全く関係無さそうな質問に、ダイアナ・モーカルは鼻を鳴らしつつも答えた。
「男兄弟ばっかじゃん」
「だから私が領主様のお館にあがったんです。しいていうなら、アン様がお姉様同然ですね」
「ふうん……じゃ、頑張って探さないとな」
最初から手を抜くつもりがあったわけではないが、親近感があるとやる気は出る。
ダイアナは成人前のメスのオークとはいえ、それでもリコより少し背が高い。
鎧と剣を身に着けて、ぱっと見は一人前だが、不安げにきょろきょろと夜道を見遣っている。
リコは生まれてこの方、メスのオークとは付き合いが少なかったから、ダイアナの様子は痛ましく見えた。
「って言ってもなあ、心当たりはもう探したんだろ?」
「はい……でもお父様や商人の顔見知りに知られると話がややこしそうだったので、あまり怪しまれるようなことは……」
「お前の家、モーカルって言ったら、この街以外にも機織り職人の斡旋してる大手だろ。うちの集落からも働きに出た奴が何人かいたよ」
「リコさんは?」
「あたしはほら、これがあるから。傭兵稼業」
目立つ肉切り包丁を指差す。ダイアナは首を傾げた。
「族長さんと結婚されても、まだ戦うのは続けるんですか?」
「なんで?」
「なんでって、大怪我したり、万が一死んだりしたら……」
「あたしが死んでも、マサルには姉貴もいるからな」
今の答えはリコの強がりではなく、心底そう思っていた。
カーツといたときも、マサルと出会ってからも、その気持ちはあまり変わっていない。
「まあ、一人は集落の外でそういうことに通じてる奴がいた方が良いんだよ。実際、この間もそれで助かったんだからな」
集落の防衛が成功したのは、リコが奴隷商人の計画を察知できたからだ。もしあのまま襲われていたら、全滅はしないとしても、集落の再建に相当な時間がかかっていただろう。
こんな場所で、こんな事件に首を突っ込むことも無かったに違いない。
リコがうんうんと頷いていると、やがて目的地に辿り着いた。
それは商工会の建物がある場所だった。
「さてと、街の中心部だ。もし顔見知りに会ったらあたしを案内してるってことで、誤魔化そうぜ。それならじっくり探せるだろ?」
「は、はい……!?」
「どうかしたか?」
「いえ、さっき兄が二人いると言いましたけど……一番上の兄が今ちらっと通りかかったような……」
「この街に暮らしてるなら別におかしくもないだろ」
「それが、一番上の兄は愛妻家で、夜になると家から出ないんです。だからお父様も『あいつは接待ってもんがわかってない』って、私がたまに実家に帰る度に言うんですよ」
その通りなら、確かに不自然である。
「どっちに行った?」
「そこの路地に……でもそこは商工会の裏口があるぐらいですよ」
その商工会の建物は、事務の者も含めて全員が帰っているはずで、明かりも灯されていなかった。
商工会の権威を示す塔が街明かりにぼうっと浮き上がり、不気味さを伝えている。
「うーん……臭うな」
「エルフの能力ですね!?」
「いや? あたしの勘」
姉と自分は違うのだ。
マサルがここにいたら、リコはそう言っていただろう。