楽な快適はそんなに無い
オークにも入浴の文化はある。
しかし、そこは二メートル超の生物である。単純に計算しても人間の三倍から四倍の広さの施設が必要となる。
数人分の水を沸かすだけでも、小型船を動かせるサイズのボイラーと燃料が必要になる。
必然的に、風呂を持つのは金持ちの道楽になってくる。
その点、サウナは比較的利用しやすいが、これも数日に一度。
普段は川や泉の水で汚れを落とすだけで終わりだ。
「だからオークは、仕事休みの前日にサウナで汗をかいて、清潔にして、交尾して、寝るわけだな」
「ははあ、なるほど……なるほど?
「今日は寝かさないからな?」
それは本来こっちが言うセリフなんだろうな……。
まさにサウナに入りながらリコから説明を聞いていたマサルは、短くて太い首を傾げた。
部屋を取った宿は、流石はオークが集まる都市のものだけあって、立派なサウナが独立した建物として用意されていた。
サウナの内張りは香りの強めの木材を使っていて、同じ木の枝葉で体を軽く叩きながら汗を流すと、清潔なのだという。
貸してもらった布で適度に垢をこすると効果的なのだが、マサルは股間に布をかぶせたままにしてある。
当たり前のように混浴だからだ。
人間でいうと大体二十人ほどが入れる広さで、今現在ここにいるのは、マサルとリコを除けば四人である。全員がオークだが、それぞれ男女ペアらしかった。
オークの女性は胸が大きめな以外にも、牙が無い。頭自体が全体的にすっきりとしていた。
そんな女性の一人が、声をかけてきた。
「話が聞こえちゃったんだけど、もしかしてご夫婦なの〜? 今どき珍しいわ〜、オークとエルフのカップルなんて〜」
「は、はあ、どうも」
やはり、珍しいらしい。それでも全く無いことではないらしいから、感覚的には国際結婚みたいなものなのだろうか。
「ただねえ、エルフと結婚すると、エルフの子供しか生まれないから」
「おい、野暮なこと言うな」
旦那さんらしきオークが注意してきた。彼は申し訳無さそうに自分の頭を撫でると、脱衣場の方に出ていき、奥さんもそそくさと続いた。
もう一組の方は比較的若いカップルらしく、こちらは全く気にせずに、仲良くお互いの体を枝葉で叩き合っている。
マサルは、リコに訊ねた。
「今の話、ほんと?」
「ああ、そうだよ。オークだけじゃなく、人族も、デーモンも……エルフとはエルフの子供しか作れないんだ。あたしらの村の神様は、その理屈に当てはまらないようにしたわけさ」
リコたちの集落の神は、オスはオーク、メスはエルフとして生まれるようにした。
マサルの魂を異世界から呼び寄せたことも含めて考えると、ちょっと普通の神ではないのかもしれない。
でなければ、似たようなことをしている神が他にもいるはずだからだ。
「もしかして、うちの神様ってかなり特殊なの?」
「まあ、その話は明日、いやでもすることになるよ。今日はたっぷり……な? へへへ……」
誤魔化されたわけではなく、目の色が怪しい。口調もほぼスケベなおっさんである。
自分の体を叩いていた枝葉で、マサルの股間をくすぐり始める。
先日から我慢させっぱなしなので、流石に止められる気がしない。
しつこいようだが、マサルも別にリコのことが嫌いなわけではない。人間のままだったら、喜んで抱いたろう。
ただ、なんというか、責任感ももちろんだが……物理的に「これ」が彼女の中に入るのか、入っちゃっていいのかという気持ちが大変に強い。
リコは体を鍛えてるとしても、イベはどうだ。
彼女は初めての旅と興奮で、夕食を済ませてからはベッドで休んでいる。
おっ始めたらおっ始めたで、自分を制御できるかどうかの自信が全く無い。この体での自慰の経験すらマサルには無いのだ。
いっそすべてを下半身に任せて、自分はさっさと寝てしまうとか?
いやいや、それはいくらなんでも卑怯過ぎる……。
結局、マサル達がサウナを出たのは一番最後だった。