託して、頼まれて
「じゃあ、やっぱりバイザさんは詳しいことは知らないんですね」
「まあね。長老たちが乗り気になったら、それに巻かれるしかないですぜ」
簡単な食事をとりながら、マサルはバイザと、彼と特に仲が良いらしい数人のオークたちと相談していた。
「その点、でっかいあんちゃんはどっかの族長だってんだろ? 若いのに良いねえ」
「美人の奥さんとすぐそこでヤッたって聞いたけどほんとか!?」
噂という奴は本当に飛ぶように広まる。
生返事で誤魔化しつつ、マサルは本題に入った。
「俺と一緒に、バラニさんのやろうとしてることを見届ける気はありませんか?」
「……」
バイザは一瞬、不機嫌そうに鼻の脇を掻いた。
それから、煙管に火を付けて、煙をゆっくりと吐いた。
「俺も女房も、バラニ様のことはずっと気がかりだったんですよ。あの人、昔は結構怖いとこがあって……ああ、それは女房が先に気付いたんですけどね。噂じゃ一度、本山に火を付けたこともあるって話ですよ」
「ええ!?」
「あくまで噂ですが、確かに火事騒ぎはあったんですよ。まあ、幸いに誰も怪我しなかったんで、有耶無耶になりました」
バイザの仲間たちは、むさ苦しい外見に似合わず気が優しいらしく、わざと興味が無いフリをしていた。
「それでもデューロを預ける気になったのは、どうしてなんです?」
「デューロがあの方の風呂を旅館で世話したことがありましてね。そのとき、バラニ様がとてもくつろいだ様子だったんです。うちの坊主も勘が良いところがあるから、何かしら察してお世話したのかもしれませんがね……これも神様の、いや、前の司教様のご縁だと思いまして。女房も賛成してくれたし」
デューロにとって村を出て勉強する良い機会だったのも確かで、それで話は決まったのだという。
その間に二人目の子供を作ることは無かったのは、夫婦でそれだけ息子のことを気にかけていた証拠なのかもしれなかった。
「だからまあ、バラニ様のことはデューロに任せてしまっても良いんじゃないかと、今は思ってるんです。あいつも随分しっかりしたみたいですからね」
「そうですか……じゃあ、俺はデューロと協力しますよ」
「ええ、そうしてやってください」
バイザのすっきりした表情に、何かを隠している様子は全く無かった。
気のいい旅館の主は、家族の生活のためにできるだけのことをしてきた、立派な男だった。それ以上でも、それ以下でもないのだ。
マサルは腰を上げて女王の軍営に帰る前に、バイザに頼みごとをした。
「でも、一つだけお願いしたいことがあるんですよね。バイザさんじゃないとできないことなんです」
「ほう」
これは父親としてのバイザにではなく、一人のオークとして見込んだからこその、頼み事であった。