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考えれば似る

 太陽が中天にかかるのに合わせて、ゲンイ司教の葬儀は本山前で行われることとなった。

 遺体発見から続けられた祈祷は、遺体を焼く炎を伴う。

 ジュカの国は火葬が多く、これはフージ教が火葬を基本としているからだった。


 フージ教は我々の世界のいわゆる世界宗教のようなものではなく、組織は牧歌的である。

 教えを現世で実践するための象徴が本山司教であり、各地の教会がそれに従い、ときに地域を尊重しながら、教えを広めている。

 よって司教が最も高位であり、この葬儀にはジュカの国の代表も同席する。

 しかしそれはあくまで平時の話であり、葬儀も月が一度満ちて欠け始めるのを待つのが慣例である。

 それが臨戦態勢であるにも関わらず、女王カタロが葬儀に参列することになった。

『これは司教様の葬儀をきっかけにして、いよいよ講和をするつもりなのではなかろうか』

『女王の後継者がいない以上、失政を認めつつも退位はせず、穏当な形で落ち着くのでは』

 そんな噂がまことしやかに、風のごとくシズの丘中に通り抜けた。



 そうはさせるか。させてたまるか。

 ほぞを噛んだ人物は、ここにきて世捨て人を気取るのはやめた。

 家を、家族を、誇りを……それら全てを奪った女王に復讐できないのなら、何の意味もないのである。

 何もかも失った自分を迎え入れてくれた素晴らしき友人も、もう誰もいない。


 あのバラニなら、わかってくれると思ったのだ。父王を失った悲しみの中で修道院に捨てられた、あのバラニなら。

 だのに、あの女は、自分が最も嫌いな女を助けようとしている。


 最後の段取りを聞かされた部下は、伏せていた顔を上げた。

「では、バラニ様も……」

「ああ。やれ。例の方法なら、傷付いたクニクでも役に立つだろう」

「し、しかしそれでは、姉上が」

 巻きつけた布で感情をも隠してきた女は、反論しかけて、やめた。

 もはや戻れる場所など無いのである。いや、そんなものはとっくの昔にあの女王が奪ったのだ。それを忘れるな。

 そんな想い……いや、もはや狂気を孕んだ視線に、部下は姿を消した。


 だが、仕上げは御覧じろ、という気分にはなれなかった。

 誰も彼も信じられない。それは彼が、周りを道具としてしか見られなくなっていたからだ。

 皮肉にもそれは、誰あろう女王の在り方とそっくりであった。


 国中を巻き込んだ喜劇も、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。

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