溺れるものは……
「貴様らのような者を女王様の前に通せるわけがないだろう!」
にべもない、とはこのことで、マサルとリコは見張りの兵に追い散らされた。
顔見知りの修道士にも同行してもらったのだが、どうも何か動きがあったらしく、丘にいる誰も彼もが殺気立っていた。
そんな場所ではマサルはとにかく目立ってしまうので、本山に来たときのようにこっそりというわけにはいかなかった。
一時は「捕まえたオークを連れてきた」と騙す方法もマサルは考えたのだが、リスクが高過ぎてリコに却下されていた。
修道士の人に礼を言って、本山の建物に戻ってもらってから、マサルたちは人目に付かない場所を探して、そこで相談し合った。
リコが軍営の様子から、推測を呟いた。
「小火騒ぎも影響はしてると思うけど、このものものしさはちょっと別もんだな。もしかしたら、決戦が近いのかもしれない」
「決戦って……」
「決まってるだろ。あの似非山賊たちと、この女王の兵隊たちとのだよ。あたしが予想してたよりかなり早いな……」
「止められないかな? 向こうにはバイザさんもいるかもだし」
「うちの集落のときみたいにはいかねえよ。お前の味方はあたしだけだし、あたしの味方はお前だけなんだから」
思ったことを口にしてみたものの、ばっさりと切り捨てられた。しかしリコの言っていることはもっともで、マサルにも納得できた。
未練がましさを引きずると、目標だけでなく、すぐ近くにいる大切な人を失うことにもなりかねない。
マサルがやや悲壮な考えになっていると、リコが彼の腹をポンポコと叩いた。
「ま、死んだ奴らの墓造りは一緒にやってやるよ」
「うん」
冗談めかしてはいたが『お前は死ぬんじゃないぞ』という意味も含まれているだろう。
マサルはもやっとした考えを振り払って、リコに言った。
「とにかく、バラニさんとデューロを見付けなきゃだね」
「おう。とはいえ、手詰まりだな……ぐずぐずしてるとあたしらも戦闘に巻き込まれかねない。後手に回らされてたとはいえ、正直、悔しいぜ」
リコの切羽詰まった表情は、しかし少しだけかわいく感じられた。
夫として褒められた感覚ではないのだが、普段見られない表情を見るとドキッとするのも本当である。
……なんてことを考えていたら、マサルは一つだけ妙案を思い付いた。
「あー、えーっと、その、さ」
「おっ、なんだなんだ、なんか思い付いたか? お前こういうときはほんと頭が働くよな」
そこまで言われると、大変恐縮である。
なにせ、思い付いた作戦というのが、夫婦揃って赤っ恥をかく内容だったからだ。