世間知らずは大体すけべ
今回から第二章です。更新ペースも第一章と同じぐらいになる予定です。
オークとエルフの争いがあったのは、戦争の規模がまだ小さかった時代に限られた。
次第に領主たちの力が強くなり、その支配領域が広くなっていくと、オークやエルフが住んでいた山林は、会ったこともない連中の資源争奪戦に巻き込まれるようになった。
オークやエルフは奴隷としても価値があり、肉体労働や探索などで使役されることが多い。
今ではオークとエルフは共に都市を中心として、ならず者たちに蹂躙されないよう、協力することが多くなっている。
これからマサルたちが会おうとしている領主も、それら都市のうちの一つを持つオークである。
その道中の一晩目。一行はマサルが担いできた丸太を支えにして簡易のテントを張った。
キャンプに適している場所には必然的に他の旅人も多くいる。その方が安全だからだ。
人族もエルフもオークも、それ以外の種族もいる。しかし、お互いに手は出さないし、足りないものがあれば融通し合う。旅ほどお互いの信頼が無ければ成り立たないものはない。
焚き火を前に座るマサルの両隣に、それぞれイベとリコの姉妹が座っており、マサルの学習もかねての世間話をしていた。
「馬鹿の一つ覚えで森を畑にしちまうような奴らが増えなければ、あたしらも気楽だったんだろうけどな」
リコはいつも通りの口ぶりだったが、着ている服はドレスである。生地は丈夫らしく、胸当てを上から付けても傷まない。
とはいえ、リコの姉のイベは口を尖らせていた。
「そういう格好であぐらをかかないの!」
「わかった、わかったよ」
素直に従ったリコであったが、今度はマサルの太い足に体をもたれかかった。
その手が腿の内側をわずかにくすぐった。
「なあ、姉貴なんかほっといて、あっちの林で良いことしようぜ? な?」
マサルは考え込んでいるふりをして無視しようとしたが、リコの手が段々と股間の本丸へと近付いてきた。
あとちょっとで着物の中に手が入るというところで、マサルの太腿から身を乗り出したイベが妹の手を叩いた。
「あなたがそんなにすけべだなんて知らなかったわ!」
「ふん。あたしは姉貴とカーツが仲良いのを昔から見せられてたせいで、気を遣ってただけさ。マサルとなら条件は同じだろ?」
「じゃあ、せめて街に着くまでは我慢なさい。私もいっしょにするから」
イベの提案に、リコだけでなくマサルまで目を剥いた。
イベはそれを承諾の意味だと取ったらしく、満足げに頷いていた。
「姉貴の方がよっぽどすけべだとあたしは思うんだよな」
リコの独り言に、マサルは内心で大きく頷いていた。
三人が目的の街、ガナに着いたのは翌々日の昼前だった。
日中であれば特に門番に止められることも無いとリコには聞いていたが、マサルは街の出入り口で自分から足を止めてしまった。
今まで通ってきた郊外では畑や家畜が見られたが、今目の前にあるのは石造りの町並みである。
オークは石の加工や建築に長けており、街の出入り口の門は幅がおよそ十五メートルほどもあり、高さ二十メートル強の地点にはアーチがかかっている。
マサルのような大きなオーク同士でも悠々とすれ違える、立派な門だ。
街は川沿いにあり、今いる表門から裏門まで街道が抜けている。
門を潜ると一際高い尖塔が目に入るが、それが街の中心の商工会議所の塔らしい。
そこから街道を外れていくと木々の多い山の方に入っていける。領主の館は、そこにあった。
商工会議所のある広場でリコから街の案内を聞いていたマサルは、首を捻った。
「なんだってそんな不便な場所に?」
「まあ、そう思うよな。やっぱり」
リコが訳知り顔で答える。
イベの方はといえばきょろきょろと辺りを見回していて、マサルよりも落ち着きが無かった。
「はは、イベさんったら子供みたいですよ。まるで初めて来たみたいだ」
微笑ましさに思わずそう言ってしまってから、失礼だったかもと反省した。
しかし、その反省は無駄なものだった。
「今まで黙っててすみません。実は、森から出たのは初めて、なんです」
腕にきゅっと抱きついてきたイベに、マサルは言葉を失った。