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死は死を手招く

 マサルが夜を引き裂くような悲鳴を聞いたのは、崩れ落ちた階段の瓦礫から抜け出たときだった。

 下手に暴れるとまた崩れかねないので、近くにいた修道士の人達に瓦礫をどかしてもらう必要があった。

 階段を壊すよりもよっぽど緊張したのだが、例の悲鳴を聞いた瞬間、背筋が寒くなった。

「あっちって階段は!?」

「ある! しかし、あちらには……」

 最後まで聞かず、マサルは歩き出した。流石にこの状況下で走るわけにはいかなかったが、巨体のオークが通路を歩くだけで、誰も止めようが無かった。

 そんなオークが階下から上がってきたせいで、悲鳴があった場所に集まっていた者達は悲鳴以上にびっくりしていた。

 幸いにもマサルのことを知っている修道士がいてくれたおかげで、事情を説明してくれた。

「実は、ゲンイ様が殺されたようなんだ。近くには君の奥さんもいて……あっ、奥さんは無事だから安心したまえ。気を失っていただけだから」

 聞いていて、まったく安心できなかった。一歩間違えばリコが殺されていたかもしれない。

 それに、状況的に楽観視できるものではない。

「……あの、もしかしてリコ……うちの奥さんがゲンイさんを?」

「事情は聞く必要があるけれど、奥さんは見た所、腕は立つんだろう? そんな人を気絶させた奴が一番怪しいんじゃないかな」

「まあ、確かに」

 知らぬ内に自分も冷静さを失っていたらしい。修道士の言葉は周囲の者達に向けての言葉でもあったようで、なるほどと頷く者もいた。

「問題は場所でね。ここはバラニ様の部屋なんだ」

「あっ、そうだ! デューロは? デューロは無事なんですか」

「えっ……デューロがいたのか?」

「火事の直前にこっちに走ってきたはずなんです」

 マサルだけでなく修道士もランプで浮かび上がる周囲の者の顔を見たが、誰も要領を得ない様子だった。

「と、とにかくリコに会わせてください」

「まだ気を失ってるから、別の部屋に寝かせてある。こっちだ」

 案内してもらってその場を離れる前に、マサルはわがままを言って、バラニの部屋の中を見せてもらった。

 そこには大きな血溜まりができていて、その中央にはシーツを被せられた遺体が横たわっていた。

「あの……顔を見せてもらっても?」

「……よし、君も面識があるからね。安息を祈って欲しい」

 修道士が顔の部分のシーツを剥ぐと、それは確かにゲンイだった。あまり良い印象のある相手ではなかったが、恐怖に歪んだ表情を見ると、この仕打ちの酷さを認識させられた。

 そこでマサルは、ある決心をしたのだった。

「あの、黙ってようかと思ったんですけど……侵入者がいるんです。そいつらに襲われたときに、ランプが砕けて、それで火事に……」

 自分もリコも侵入者みたいなものなので、話をややこしくすべきではないと考えていたのだが、この惨状を目にしてしまうと、これ以上の被害者は絶対に防ぎたいという気持ちの方が勝ったのだった。

「なるほど……兵隊が来てから、万が一こういうことが無いようにと、他ならぬバラニ様のご指示で、みなが部屋から出ないようにしていたのだ。それだのに肝心のバラニ様はここにはいなくて、ゲンイ様が死んでいるとは……」

 修道士は考え込みかけて、しかし自制をした。

 彼は仲間の何人かと相談をしてから、マサルに言った。

「急ごうか。兵隊たちも騒がしくなってるみたいだし、バラニ様とデューロの無事も確認しなくてはならない」

 もちろん、断る理由はない。マサルは今度こそ、その場を離れたのだった。

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