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旅行から帰ってくると妙に忙しい

「やってることがおっさん臭えな」

 デューロの思い出話を聞いていたリコが、あんまりな感想を述べた。

 まあ、バラニの素行についてはデューロも自分で触れていたのだが。

 乾いた笑いが微かに響く中、マサルは話題の切り口を変えた。

「そんなに頻繁に、本山を出たり入ったりしてたんだね。宣教するならどこか一箇所に留まってた方が良さそうなもんだけど」

「それは俺も気になってたから、前に訊いたことあるんだよ。自分は若輩で世間知らずだから、まず色んな場所の人達と仲良くなるとこから始めたんだってさ」

「へえ、意外と生真面目なとこもあるんだな。どっかの誰かさんみたいだ」

 リコの軽口はマサルへ向けられたものだったが、悪い気はしなかった。


 エルフやオークはこの世界だと種としてのヒト族より長生きだそうだが、それはつまり人間関係を作る上ではいい面も悪い面もヒトより多いということだった。

 ガナの街での領主と商人や町人のすれ違いも、ジュカの国のアンバランスな統治も、寿命が長いからリスクが大きくなった感がある。

 だからといって知的生命はみな、やることをやったら死ぬべきだ、なんてマサルも思うわけではないが、傾向としてリスクは把握しておいた方が良さそうだった。

 ……いや、これは傲慢かもしれない。マサルが思ったようなことは、当然にこの世界の人達も感じているはずなのだ。

 その上でどう行動するかを、それぞれに苦しみながら考えているはずなのだった。

 気楽にその日暮らしをしている者もそれなりにいるだろうが、それが悪いわけでもない。「思う」と「考える」とで絶対的な優劣を付けようとするのは、乱暴だろう。


 マサルが考え込んだのを見て、リコは勘違いしたらしい。わざわざ「別に悪口で言ったわけじゃねえぞ?」と小声で言ってきた。

 そういうのはずるい。かわいい。こういうときにやめてほしい。

 マサルは必死にイベのことを考えることで湧き上がる興奮を抑えたが、後になって「イベさんの存在価値が難しい数式と同じってどうなんだ」と罪悪感を覚えた。


 さて、マサルたちはいよいよ修道士たちが多く住んでいる階層に達して、流石に声をひそめるようになった。

 ここに至っても見回りの修道士はおらず、デューロの持ったランプの照らす範囲外は真っ暗だった。

 雨戸が開いてれば月明かりも入るのだが、換気用の小窓が開いてるだけで、光量としては全く足りなかった。

 安全上の配慮もあって階段は他にも何個かあるので、どこから人が出てくるかも本来はわからないはずなのだが……あまりにも静かで、マサルでさえ耳が馬鹿になったのかと疑うような状態だった。

「この上がバラニ様の部屋のある階だよ」

 最後の踊り場で、デューロが呟いた。マサルとリコが頷く。


 しかしそこで、ようやくというべきか、他の人の声が聞こえた。

 デューロはいち早くランプに防火布を被せ、明かりを隠した。

 それから彼は慎重に階段を上がり始めたが、ある瞬間、急に走り出した。

「バラニ様!」

 彼の切羽詰まった大声は、踊り場どころか上下の階層にも響いた。

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