階段は続く、ただ続く
本山の内部は、予想以上に静かだった。
元々、夜は下層に人が少ないとはいえ、見回りの人もいないのは異様といえた。
前にも少し触れたが、この建物は構造が複雑なために、失火を防ぐ目的で明かりは設置せずに持ち歩くことになっている。
人がいないということは明かりも無い。
先に入ったデューロをリコはすぐ見付けたらしく、その後に来たマサルに暗がりの中で声をかけてきた。
「とりあえず、このまま上に行こう。修道士に見付かる分には問題無いはずだ」
「もし兵士と出くわした場合はどうする?」
「殴って気絶させる」
「ははあ、なるほどなあ」
とてもわかり易い解決方法である。まあ、兵士はより集まるから怖いのであって、屋内で一対一なら、リコであれば余裕だろう。
「何を他人事みたいなこと言ってんだ。一対一ならお前が殴れよ。確実に気絶するし、なんなら死ぬぞ」
「俺が前を歩いてたらリコたちは前が見えないだろ」
「めんどくせえなあ……」
とかなんとか言ってある間に、デューロが階段を上り始めた。
それを見るや、リコはデューロの後に付いていったので、マサルも倣ったのだった。
何階か上るうちに内部の暗さにも慣れてきたが、デューロがある階の階段脇の小部屋から、ランプを失敬してきた。
おかげで内部の様子はよく見えるようになったが、こちらが見咎められ易くもなった。
「ここまで来たらびくびくした方が怪しいんだよ。堂々としてろ」
ついさっき、殴り殺せみたいなことを言っていたのと同一人物の言葉とは思えない。
あるいはリコもリコで緊張はそれなりにしているのかもしれない。
「じゃあ、あまり黙っていてもだし、話しながら行こうか」
何せ、とにかく階段が長い。おまけに高位のバラニの部屋はかなりの高層にあるので、大げさじゃなく、踊り場の度に溜息を吐きたくなる。
しかし、リコの答えは素気ないものだった。
「お前と今更、改まって話すようなことあるか?」
確かにこの旅行中、ずっと喋ってたような気がする。
子供の頃の話もしたし、食べ物の話もした。家族の話はあまり突っ込んだ話はしていないが、忌避するようなものでもなかったので、少しは触れていた。
「おっ、そうだ。デューロ。お前なんか話せよ」
「は? 俺?」
「明かりはあたしが持ってやるからさ」
そうして、デューロは話し始めたのだった。
バラニとのこれまでの生活を。