46.寂しい神社の中で
投稿が遅れました。申し訳ありません
お花の予想通りであった。
「本当に誰もいない……」
神社へと向けて歩いている段階で周りに誰もいなかったのでそうじゃないかとは思っていたが、神社の境内には人の姿はなかった。
「でも明かりはついてますね」
誰が管理しているのかはわからないが、灯篭には明かりが燈っており幻想的に道を照らしていた。
「年越しまではあとちょっとだけど……どこか座れる場所があるかな」
「うーん、どこかありますかね」
立派な神社ではあるが明らかに観光向きではない。人を出迎える屋台などはもちろん休息所なんてあるわけもないし、本当に見たままの神社だ。
「大丈夫? 寒くない?」
「はい大丈夫です。冬香さんこそ寒さは大丈夫ですか?」
「まあこんだけ着こんでいるからね。寒くないわけじゃないけど」
ありがたいことに真冬の大晦日ではあるものの、思ったより風も吹いておらず気温はかなり低いが防寒着のおかげで耐えられないものではない。
「まあせっかくだしどこか座ろうか」
そう言って冬香が示したのは本殿に続く階段だった。数ヶ月前、初めてここを訪れた傷心中の冬香が晴れの中の雨に見舞われた場所でもある。
ちょっと罰当たりな感じもするが、周りに人は誰一人いないし年越しまでの短い時間であれば問題ないだろう。
お花も冬香の提案に賛成し、二人してそこに座り込んだ。
「はい、これ」
「ありがとうございます!」
持ってきた水筒から温かい紅茶を注ぎお花に手渡す。保温バッチリのお洒落な水筒に入っていた紅茶は全く冷めていない。ついでに来る途中にコンビニで買ったお菓子の詰め合わせを開ける。
「余裕があったら他の神社にも行ってみようか」
「え? この後ですか?」
「いやいやいや、まあ三箇日のどこかでね。大きな神社も結構賑わってて楽しいと思うし」
シンと静まり返っているこの神社も風情があって良いものには違いない。人目がないのでお花も耳と尻尾を普通に出せるし、変に気を遣う必要もない。
だけど、今更ながら冬香の中には小さな欲望が生まれていた。単純に賑やかな神社をお花と回りたいというものであったが。
「ここもいいけど……賑やかで屋台もたくさんあってね。あ、お守りとかおみくじとかも買えるし」
そう伝えるとお花はそれもいいですねと楽しそうに頷いた。思えば去年の冬香はだるいからと寝正月をがっつり過ごしていた。それがたった一人の少女がいるだけで変わる物だから不思議なものだ。
「もうすぐ年越しですね」
「うん」
会話が一旦途切れてから、感慨深げにお花がそう口にする。冬香も中々に激動の年だった気はしているが、お花はもっとそうだったに違いない。
全く見ず知らずの相手に対して嫁ぐなんて普通に考えればあり得ないし、相手の性格だってわからなければ怖かったに違いない。
「いやー、お花は偉いなぁ」
「え? 何ですか急に?」
「ううん、こっちの話」
そう言って隣に座ったお花を耳含めて撫でると彼女は気持ちよさそうに目を閉じる。そのまま体をコテンと預けてくる彼女に同じように身を寄せる。
「しかし、思ったより寂しいね」
「まあ、誰もいませんからね」
誰の目もないということは好き放題イチャイチャできる反面、静かすぎるのもまた考え物であった。賑やかすぎると大変だと思ってこの神社を選んだのは間違いではないと冬香は思っていたが、ないものねだりというか賑やかな神社もまた行ってみたいなと思い始めていた。
「ん?」
そんな欲を思い浮かべていた時だった。相変わらず誰もいない境内だったが、そこに小さな火が浮かび始めたのだ。
「え? 狐火がどうして……?」
お花もそれを見て疑問を口に出す。しかし、その言葉を聞いた冬香は何となく次に何が起こるのか予想できてしまった。
「おおう、まじか」
狐火が数を増していき、あっという間に神社は不思議な明るさに包まれる。そしてその明るみの中に人影が浮かび上がる。とても大きな尻尾のシルエットは冬香が一度は目にしたものである。
「え? うそ、任氏様!?」
何でまた現れたのか、冬香は彼女の登場に訝し気な目線を向けた。
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