45.神社へと足を向けて
年末年始の連休に入ってすぐ、大晦日はやってきた。
「今年一年も終わりかぁ」
気が付いたら年末とは良くいうが、今年は特に一年が早かったと冬香は感じていた。年を取ったからというありきたりな理由よりは色々なことがありすぎて忙しすぎたというのが正しいところだろうか。
「ふんふーん♪」
正月に向けておせちなどの仕込みをしているお花の上機嫌な鼻歌を聞きながら、冬香自身もゴソゴソと動きまわっている。外は既に真っ暗で実を言うとあと数時間もすれば年越しを迎える時間だ。
だから冬香はその神社に出掛ける準備をしていたのだ。電車に乗って例の神社まで行って年を越す。その後は終電とかはないはずなのでタクシーで帰ってくるという予定である。
「よし、冬香さん! こっちはもう大丈夫ですよー!」
「はーい。こっちも準備できたからそろそろ出よっか」
冬香が準備していた防寒一式。お花曰くあの神社は下手したら誰もいないという可能性もあり、明かりぐらいはついているだろうが身を温める場所がないこともあり得る。つまり、それなりの防寒策は必要なわけである。
「まあ、備えあれば憂いなしって言うしね」
冬香は厚着の上からさらに厚手のコートを羽織り、お花も子供用ではあるものの、ばっちり寒さを防げそうな上着を用意してある。とりあえずあとは暗い時用の懐中電灯やら温かい飲み物や簡単な軽食などなどをリュックに詰め込んでいく。とりあえずあっちの神社に本当に何もなかった場合の準備だ。
「よし! じゃあ行こうか!」
「はい!」
そして準備が終わったらいざ出発である。部屋の玄関を開けた瞬間恐ろしい寒さが二人を襲った。
「ひえっ!」
「ひぅっ」
二人して同時に縮んでしまい身を寄せて固まってしまったがここで止まるわけにも行かない。
「が、頑張って駅まで行こう」
「そ、そそそうですね……」
完全防寒してこれだ。二人はギュッと引っ付きながら歩いていたが、今日に限っては嬉し恥ずかしさよりも寒さを緩和できる点が勝り、それを気にする余裕はなかった。
駅までの道のりは寒く厳しいものだったが電車に乗りさえすればとりあえず一時的に暖かさに包まれる。
「やっぱりこっち方面はあんまり人いないね」
「そうですね。皆さんはどこに行くんでしょうか」
「そりゃ大きな神社とかでしょ。こことは方向全然違うとこだけど」
駅に着いたときそこは中々移動する人で賑わいを見せていた。冬香達と同じく今から年越しと初詣に移動する組には間違いない。ただ彼ら彼女らの行くのは名物となっているような大きな神社で、それは冬香達の行こうとしている神社とは別だ。
「そのおかげでこの電車はスカスカね」
周りを見れば明らかに初詣とは別件の人達が何人か座ってるだけ。よっぽど穴場なのであるあの神社は。
「穴場というか、会員専用とかそんな感じだけど……私達以外にもいる可能性はあるんだよね?」
「一応その可能性はあると思いますが……でも誰もいないと思います」
「え? そうなの?」
「あそこの神社は私達の界とここを繋ぐ場所だっていうのはご存じだと思いますが、入ることの出来る人は冬香さんみたいに招待される何かを手にした人だけなんですよね」
既に懐かしくなっている傷心していた時にもらったチラシを思い出す。
「それでいて私みたいな妖狐を迎えることが出来た人が出入りできるので、今この時代にそういう人がいない限りは誰もいないはずです」
「なるほど……ちなみに私みたいに妖狐と一緒にいる人がいるのかわかるの?」
「詳しくはわかりませんが、ただ同族の気配は察することは出来ます。今のところそれを感じたことはないので……」
誰もいない可能性が高いということだ。冬香はお花の答えに納得して車窓の外を見る。今年も例年通り寒いがまだ雪は降っていない。
「二人っきりの年越し初詣もそれはそれで悪くないかもね」
流石に大手の神社のように屋台などはないだろうが、そのために色々とリュックには詰めてきてある。そういえば鐘とかはあっただろうかなどと考えていたら、電車は目的地に着いた。
また今から寒さとの勝負になるがそれを含めて楽しむつもりだ。電車から降りて自然と手袋越しに手を繋いで二人は歩き出した。
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