44.年末へ向けて
お花も賛成してくれた引っ越しについてはまだ構想の段階ではあるが冬が過ぎた三月頃にする予定を立てた。
年度の切り替わる時期であるし、アパートの契約の更新月なのも関係している。
「うー、寒いっ!」
さて、今日は土曜日であり休日である。冬香は今日の食事当番なのでその食材を買いにスーパーに来たその帰りだ。
いつもだとお花も一緒に来るのだが今日は珍しく冬香一人である。というのも一緒に来てしまうと何かとお花が手伝いたがり、断るとしょんぼりしてしまい罪悪感から結局手伝ってもらうことになるので、それを防ぐために今日は家でゆっくりしててと言って出てきたのである。
「もう年末かー……」
家までの帰路で通る商店街は年末セールを謳って安売りしていたりと激しく商戦を繰り広げており賑わいがある。
「年末は静かに過ごすとして、初詣は……あの神社に行くのはありかも」
その様子を眺めながら年末年始の計画を立てる。毎年に比べれば改善したおかげか仕事はずっと楽で、最近でも帰ってくる時間は日を跨ぐ直前ではないのでだいぶ心に余裕があるのだ。
「む……」
そんな風に考えながら歩いていたら商店街の肉屋に目が付いた。流石専門店だけあって美味しそうな物がショーウィンドウに並んでいる。
「いらっしゃい! 今セールでお得だよ!」
「ちょっと買っていけばお花喜ぶかな……」
釣られるようにフラフラと近寄って気が付けば財布の紐を解いてしまう。そうして周りを見て見れば中々に美味しそうな物が揃っている。良い匂いのする焼き鳥屋、天ぷらを扱っているお店、食後によさそうな和菓子のお店。
普段なら、こういう時ストッパーとなるのは実はお花だ。意外と冬香はその場の思い付きで考えず物を買ってしまう癖があり、もしもこの場にお花がいたならそれとなく阻止しただろうが、今日はいない。
「……あれ?」
そして家に帰りついた冬香はいつの間にか両手に大量の袋を提げていた。そしてそれを省みて今更ながらやっぱりお花と行けばよかったのかなと後悔する彼女であった。
ちなみに流石にお花からはやんわりと無駄買いをしないようにと窘められることになった。
*****
それから時間はゆっくりと過ぎていき、冬香は年末年始の連休に入った。寒さはピークを迎えて下手をすると雪が降りそうな感じである。
ちなみにクリスマスであるが残念ながら平日ど真ん中でしっかり仕事であった。これに関してはお花の里でも習慣になかったらしくクリスマスを一緒に過ごせないことは特に気にしていないようだった。なのでケーキと簡単なプレゼント交換をするだけになったが、来年はもうちょっとちゃんと楽しまなくてはと冬香は人知れず決意したりした。
さて、年末を控えたそんな日。特にやることもなく出掛けることもない冬香とお花はテレビをつけながら非常にまったりとした時間を過ごしていた。
「~~♪」
お花は陽気に鼻歌を口ずさみながら何かを編み込んでいた。というのも最近冬香がいない暇な時間をどうしようかと悩み、買い物先で編み物キットなるものを見つけて購入していたのだ。
それで何かを作って冬香にプレゼントするつもりらしく、こうして今もアミアミと手を動かしているのだった。
(ぐぐぐ、可愛い……!)
鼻歌もそうだし、ご機嫌なのか自分の膝の上で小さく揺れている体も耳も尻尾も全部が可愛い。後ろから抱いているおかげでお花から見えないが、冬香の表情は非常に言い表しにくいほどふやけていた。
「んん? どうしたんですか?」
「なんでもないよー、お花はそのまま続けててー」
膝に乗せていた状態からぎゅーっと抱き着いてきた冬香にお花はどうしたのかと声を掛けるが、もちろん用があるわけはない。既に二人の間に距離感というものは物理的にも存在しなくなったのか、お花も多少恥ずかしさはあったものの、嬉しさがそれを上回ったのか窘めることなく再び編み物に戻る。
そんなぼんやりとした時間の中で、冬香は年末年始のことを思い出して口にする。
「そういえばさ、元旦の話なんだけど。初詣には行くでしょ?」
その言葉にお花は編んでいた手を止めて振り向いて返事をする。
「そうですね。特に問題なければ是非ともそうしたいと思っていますが」
「どうせならさ、どこに行っても混んでるだろうしお花と会った神社に行かない? あそこってそんなに気楽に行っちゃだめなとこ?」
「そんなことないと思いますよ。ただ、あそこは前も言ったと思うんですけど行ける人だけしか入れない場所なので人は少ないと思いますよ?」
人が少ないと聞いて冬香は喜色を浮かべる。
「寧ろ最高じゃない! あんまり人が多すぎると大変だし、私も騒ぎたいわけじゃないからさ。二人でゆっくり過ごしたいし」
「二人で……そうですね! それじゃあ、そこに行きましょう。あ、それとおせち料理とかは私に任せてくださいね! 腕によりを掛けますので!」
「おせち作れるの!?」
冬香の驚きにお花はドヤ顔だけで答える。そういう練習はしっかりして自信があるというお花であった。こっちに来てからおせちなど口にしていない冬香は自然とテンションがあがる。
「だったらすっごい楽しみ! ……でも少しぐらいは私も手伝うからね。流石に全部作って貰うのは悪いから」
「わかりました! じゃあ一緒に作りましょうね!」
そんな会話をしながら彼女たちの時間はのんびりと過ぎていき、そしてついに年末を迎える日がやってきた。
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