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お狐ちゃんのお嫁入り  作者: 熊煮
5章:始まりの冬
43/50

43.お花への提案

「ただいまー」

「お帰りなさい!」


 アパートの部屋を開けた瞬間、小さい塊が飛び込んでくる。


「おおっと、ごめんね今日もちょっと遅くなっちゃった」


 冬香は飛び込んできたお花を正面から受け止めて謝る。割と勢いはあったが小さい彼女の体当たりはそんなに痛くない。

 受け止めたまま柔らかく頭を撫でてあげるとお花は気持ちよさそうに目を細めた。


「全然待ってませんから大丈夫です。すぐに出来るのでちょっと待っててくださいね!」


 お花はそう言って冬香から鞄を受け取る。そのまま冬香は手洗いうがいを済ませ着替えると食事の準備に入る。流石に待つだけなのは申し訳ないので皿を用意したり、食卓の準備をしたりと出来るだけ手伝う。


「お待たせしましたー。今日は寒いので簡単ですが鍋にしました!」

「おお……まさかこの部屋で鍋が食べれる日が来るなんて……」


 お花は簡単な寄せ鍋だと言うが手間を掛けているのは一目見ただけでもわかる。そして何より一人暮らし時代では絶対に作ろうとは思わなかった鍋の登場に冬香のテンションは上がる。鍋料理を出す店ではなく家で出るのは何だか特別感があって良い。


「じゃあ、頂きます!」

「頂きます」


 寒い日に特別な相手と食べる鍋はもっと美味しい。もちろん暖房はつけているがそこら辺は気分の問題だろう。そのまま二人はしばらく鍋をつつきながら和気藹々と夕食を楽しんだ。


 そして食事を終えて片付けも終わってから、冬香は話そうと思っていた話題を切り出した。


「えっと、まだかなり先の話ですが引っ越しをしようかと思います!」

「え?」


 お花は最初言われた言葉を上手く理解出来なかった。突然告げられた言葉の意味をそのまま受け取れなかったのだ。


「え、え、冬香さん、出て行っちゃうんですか……?」


 そして、どういうわけか冬香がお花を置いて他の場所に行くという結論に至ってしまい、一瞬で瞳に涙を溜めてしまう。冬香は当然慌てた。


「違うって! そ、そんなわけないでしょ! お花と一緒に暮らすためにもうちょっと広い部屋に引っ越そうと思ってるの!」

「あ、そういうことですか……びっくりしました、捨てられるかと思って」

「そんなことするわけないでしょう……寧ろ私が見捨てられないか心配なのに……」

「私だってそんなことしませんよ! ずっと一緒にいるって決めたんですから!」

「あ、ああ、うん……」


 お花は最近面と向かってそういう気持ちを正直に伝えてくれるので、冬香は嬉しいような恥ずかしいむず痒い感覚に襲われることが多い。もちろん嬉しいには違いないのだが。


「とにかくね! そういうわけで色々と考えようと思ってるからお花も何か要望とかあったら言ってね。キッチン周りも最近は色々種類があるみたいだし」

「へぇ、どういうのか見てもいいですか?」

「ええ、もちろん」


 スマホで検索をした画面をお花と共有する。画面は小さいので自然と体が引っ付くような姿勢になる。


「わ、こんな広いんですか!?」

「この部屋がそもそも一人暮らし用で狭いだけなんだけどね……引っ越せばそれだけ広くなるよ」


 画面に映る部屋模様に興奮しているのかお花の耳や尻尾が時々動く。特に尻尾は感情豊かなのか左右にゆらゆらと大きく揺れている。その度に冬香の身体をフワフワと撫でていくので、その感触を楽しんでしまう冬香はあまり集中できない。


「このIHヒーターってなんですか?」

「えっとね、火じゃなくて電気で熱を作るコンロだよ」

「へー、そういうのがあるんですね……ひゃっ!?」


 そして尻尾の誘惑に抗うことは出来ず遂にお花の問いに答えながらその尻尾を撫でまわし始めた。あまり敏感ではないと本人は言っていたが、突然触られると流石に驚くらしい。


「あ、ごめんね。続けていいよ」

「え、あ、はい。で、でもちょっと落ち着かないんですけど……」

「でもさ、最近全然触ってなかった気がするし、お花の尻尾フワフワで最高に気持ちいいからさ……仕事の疲れが飛ぶー……」

「お疲れなんですね……でも、今は我慢してください」


 お花はそう言って尻尾を冬香からプイッと遠ざけた。当然抗議の声を上げる冬香だったがお花は諭す様に言う。


「その、寝る前とかだったらいくら触ってもいいので……今は引っ越しの話をしましょう?」

「うー……わかった。ごめん」

「いえ、私も我儘を言ってすみません。お仕事を頑張っているのはわかっているのですが、ちゃんと新しい部屋は考えたいんです。だって一緒に住むんですよね」


 そう言ったお花の顔は真剣だった。そこまで真面目に考えてくれたことは冬香にとってちょっと予想外でそれでいて嬉しかった。ちゃんと将来のことを想っていてくれていることがわかったからだ。


「うん、本当にごめんね。一緒に二人で楽しく住める部屋を探そう」

「はい! あ、キッチンは広いほうが私は嬉しいです!」

「そりゃそうだよね。私はちゃんと寝室があって広いところが……」

「寝室以外で二人でくつろげるスペースもあったら嬉しいですね! 例えば……」


 そうして、二人の部屋探しは今日はネット上ではあったがかなり盛り上がっているようだった。

ブックマークや評価、感想や誤字脱字報告などいつもありがとうございます!

次回の投稿は4/27の20時頃になる予定です!

次回もよろしくお願いいたします!

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[良い点] 寝る前とかだったらいくら触ってもいいので… [気になる点] 寝る前とかだったらいくら触ってもいい [一言] 重要なので2回(ぉ)
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