40.紅葉の告白
前回の更新が出来ずすみませんでした。
「好き」、そう言ったお花は恥ずかしそうに頬を染めていた。
それに対する冬香はお花を隣にしたまま固まってしまう。
(別に絶対私達の関係を言ったらダメとまではいかないけど……)
冬香自身も無理してまで隠し通すつもりはないし、いずれは何らかの形でバレることもあるかもしれないからと腹は括っていた。だけど、今冬香を困惑させているのはお花の反応だ。
申し訳なさそうにするならいい。お花は約束とか決まりを守れないとかなり落ち込んでしまうところもあるから、もしそうだったら慰めればいいからだ。
しかし、今のように頬を紅葉の様に染めて恥ずかしそうにしているその姿はまさに恋する乙女といったもので、それに冬香は激しく困惑していた。
「お花?」
「ひゃ、ひゃい!」
余程緊張しているのか、冬香が名前を呼んだだけで彼女は体を跳ねさせる様である。
「あのさ、変なこと一つ聞いてもいい?」
「変なことですか?」
「うん……だいぶ変なことなんだけど」
冬香のその言葉にお花は訝しげに思いながらも頷く。まあ、ここで「駄目です」と断るような子ではないということは冬香はわかっているからだ。
それでもわざわざ確認したのは自分にも言い聞かせていたのかもしれない。本当にそれを聞いても良いのか、と。
お花が頷いたのを見てから冬香は少し間を置いてから、意を決して尋ねた。
「…………お花って私のこと好きなの?」
「……ほぇ?」
今度はお花が固まる番だった。まさかそんな直球に聞かれるとは思っていなかったのか、彼女は冬香の言葉を理解してからわたわたと慌てふためく。だけど今更取り繕うのは無駄だとわかっているのか、赤く頬を染めたままコクコクと首を縦に振るだけの返事をした。
それを受けた冬香は素直に疑問に思っていた。
(な、なんで???)
冬香は自分を省みて決して好かれているとは思っていなかった。もちろんお花が慕っていてくれているのは感じていたが、それはあくまでもパートナーとか相棒とか、とにかく恋愛感情は無しとした感情だと思っていたからだ。
お花はこことは違う場所から一人でやってきた。それもいきなり嫁としてやってくる形でだ。かなり心細かっただろうし、実際彼女は色々と思い詰めていたところもある。
冬香はそれを出来るだけなくしてあげようと努力をした。流石に不安全てを取り除くことは不可能とわかっていても、少しでもお花が過ごしやすいように配慮したつもりだ。
だからこそ、そこから好きに繋がるとは思ってもいなかった。
「好きって、え、お花が? 私を?」
「な、何度も聞かないでくださいぃ……」
「だって、え、私お花に好かれるようなことをした覚えがないんだけど」
「そう言われても……うぅ」
お花は恥ずかしさが頂点に達したのか体育座りをして丸まってしまった。冬香はそんなお花に慌てて声を掛ける。
「ち、違うからね!? 嬉しくないわけじゃなくて、寧ろ凄く嬉しいけど!! でも、本当にわからなくて……私ってほら、人から好かれる人間じゃないし」
「そんなことないとは思いますが……」
「逆に聞きたいんだけど……私のどこをどう見てそんな、好きなんて……」
「何か大きな理由があるわけじゃないですけど。でも、冬香さんはいつも優しいですし、それにそのままの私で良いってそう言ってくれたじゃないですか……」
「え、それだけ?」
それだけ、という言葉を否定するようにお花は首を横に振る。
「冬香さんから見れば小さいことかもしれないですけど、私って本当にドジが多くて他の方からも大丈夫なのかってたくさん心配されていました。だから冬香さんと初めて会った時からずっと緊張していて、失敗しないようにずっと気を張ってたんです」
それは以前お花が話してくれた内容である。冬香は黙っていまだ丸まっている彼女の話を聞く。
「私は捨てられないようにと思って好かれようと必死で……だけどやっぱり失敗して、それで駄目だったと思っていた時、冬香さんは優しく受け止めてくれました。それだけかと思うかもしれませんが、私にとっては大きなことで……確かに救われたんです。だから、出来れば一生そばにいたいと真剣に思ってます」
「お花……」
丸まった姿勢から顔を上げたお花は少し涙ぐんでいた。色々な感情に思い詰めているのだろう、しかし言いたいことを言ったからかそれでもすっきりした顔をしていた。
「冬香さんにとって迷惑ならこの感情はもう出しません……こんな変なことは二度と言わないので、どうか捨てないでくれませんか」
「待って、ちょっと待って……」
急にぐいっと詰め寄ってきたお花の肩を掴んで制止させる。拒否されたのかと思ったのか、お花の表情が一気に不安に染まったのを見て、冬香は慌てて口を開く。
「いや、本当に嬉しいのよ? 私だってお花のことはその……好きだし、貴女の気持ちが知れて良かったとも思ってる。だけどね、本当に私はお花の思ってるほどいい人じゃないの」
冬香はそこから自分のことを話す。それは女性を恋愛の対象として見ていることから始まり、以前付き合っていた(と思っていた)女性の話、そういった自分のことをお花に告白する。
「お花からすれば私は凄く優しかったりとか、見えてるのかもしれないけど……それだけじゃないよ。恋愛の対象が女性って事はわかるでしょ? 性的な目だって持ってるし、それをお花に向けたことが全くないわけじゃない」
話していて今度は冬香が泣きたくなってきた。昔と比べて同性愛という恋愛の形は世間一般から見てもだいぶ受け入れられてはきている。それでもいまだに狭い領域だ。同性が好きなことを後悔したことはないが、それでも生きづらいのは間違いない。そしてそれを聞いたお花の反応もまた怖い。
だけど、その心の不安を断つようにはっきりした声が響く。
「別にいいです。それぐらい」
「え?」
お花は真剣な瞳で冬香を見つめていた。
「私だってそういう知識がないわけじゃないですし、冬香さんが時々そういった情を向けてくるのは感じていました」
「ま、まじ?」
「はい。そういう人の感情に私達の種族は敏感なので。それに、そうだとしても私は冬香さんのことが好きです。この気持ちを変えるつもりはありませんから」
もう一度、ズイッとお花が詰め寄る。今度は抑えることは出来なかった。
「冬香さんは、どうなんですか? 私と一緒にいることは……嫌ですか?」
「………………」
お互いの瞳は揺れている。感情の波が何度も何度も打ち付けていた。だけど、冬香だって最初から回答は決まっていた。それを自分が認めることが出来なかっただけで。
「嫌なわけない。もう、お花がいない生活なんて考えられるわけないじゃない」
「……そ、それじゃあ」
「ん、ごめんね。先に色々言わせちゃって。私もお花のこと好きだよ。純粋に一人の相手として」
「……冬香さん!」
飛び込んできたお花を冬香は受け止めて抱きしめる。今は見えてない透明な尻尾の感触がやっぱり心地良い。お花も嬉しそうに冬香の胸に頬ずりしてその喜びを噛みしめているようだった。
そして、しばらく抱き合っていた彼女たちは漸くその姿勢を解いてお互いに微笑み合う。
そして冬香は少しだけ恥ずかしそうにはにかみながら伝える。
「これからもよろしくね、お花」
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
そんな二人を祝福するかのように一陣の風が吹き、紅葉模様で彼女らを包み込んだ。
次回から最終章です。最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。
次回の投稿は4/15の20時頃を予定しております!
どうぞよろしくお願いいたします!