表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お狐ちゃんのお嫁入り  作者: 熊煮
4章:秋になりまして
39/50

39.山の中に花が咲く

 緩やかな勾配の中、柔らかい地面を踏みしめながら二人が歩いている。


「やっと二人になれたね」

「そうですね。だいぶ疲れました……」


 ひたすら子供たちの遊びに巻き込まれていたお花であったが、当初話していた通り、二人で紅葉を楽しもうと冬香が呼びに来てくれたおかげでやっとのこと解放されることになった。


 それで今は中心から離れて二人して秋山を歩いているところである。


「お花は体力とはあるのかと思ってたけど、そういうわけじゃないんだ?」

「はい。そこらへんは普通の人と変わらないかと……まあ中にはそうじゃない方もいますけど」

「そこは人と一緒かぁ。まあ子供は体力多いからねぇ」


 そこまで会場から離れることは出来ないが喧噪から離れることは出来る。現にさっきまでは聞こえていた子供の遊ぶ声や大人の賑やかな声は全く聞こえない。


「こうして静かになると急に風情が出てくるわね。さっきまでは飲んで食って騒いでただけだから感じなかったわ」

「そうですね。風も心地良いですし紅葉の景色もすっごく綺麗です……」

「そういえばお花の住んでたところは季節とかはあったの?」

「ありましたよ。こっちと同じで四季があって季節ごとに色々と楽しむのも一緒です」

「そっかー。じゃあ、あんまり新鮮味とかはない?」

「そんなことないですよ。冬香さんと一緒なのは初めてですし……」

「……そうね。私も誰かとこうして二人で見るのは初めてかも」


 冬香にしても成り行き上ではあるが、同棲しているような関係の相手と来るのは初めてだ。会社の企画した行事ではあるが、こうしてお花と一緒に来られたことにある意味安心していた。


(せっかく一緒に過ごしているんだもの。どこかに出掛けたりぐらいはしないとね……)


 付き合っているカップルは四六時中どこかに出掛けないといけないなどという決まりはないが、お花と出会ってからまともに出掛けたのは花見くらいだ。夏は風邪を引いたこともあって何もできなくて申し訳なかったので、こうして埋め合わせをしているつもりなのである。


「子供たちとは何をして遊んでたの? パッと見てたら走り回ってばっかりのようだったけど」

「色々ですね……動き回っていたばかりなのは本当ですけど。そうだ、どこかに座りませんか?」

「ああそうね。ごめんね、疲れてるのに歩かせて」

「いえいえ、疲れは大丈夫なんですが、少し改まってお話したいこともあるんです」

「え?」


 突然、お花の声が真剣味を帯びる。冬香はそれを敏感に感じ取り訝しく思ったがその場で聞くことは出来ず、そのまま座れる場所を探すことにする。


 山の中といっても傾斜は緩やかなのでいくらでも座れそうな場所はある。ただ地面が湿ったところなどもあるので、そうしたところは避けて場所を選ぶ。幸運にもちょうど陽があたって乾いた落ち葉の絨毯が出来ている場所を見つけたので、二人はそこに座り込んだ。

 歩いている時とは違い涼しい風が二人を包み込むように通り過ぎ、鮮やかな紅葉を散らしていく。


「どうしたの急に話したいことなんて……」

「……ちょっと大事な話なんです。えっと、とりあえずさっき遊んでいた時のことなんですけど」


 お花は詳しい所は少しだけ伏せて、さっきの香織との話をしていく。遊んでいた子の中にとある人が好きな子がいたこと。その子に冬香と付き合っているんじゃないかと聞かれたことなど、それを話していくと冬香の表情は目に見えて焦り始める。


「ま、まじで? 子供に見破られるほどイチャついてたっけ……?」

「いえ、たぶん直感か何かでそう思っただけかもしれませんが、そういう話になってしまいまして……」

「そ、それでお花は何て答えたの……?」


 冬香は恐る恐る尋ねる。出来る限り不要な問題は作りたくないのでその関係性を話すことは避けたかった。仮に誤魔化すためとはいえ関係を否定することを冬香はあまり良いとは思えないのだが、それはしょうがなかった。

 お花は冬香の問いに答える。


「一応、私達の関係の事は隠しました。言っても信じては貰えないとは思いますし。でも、一つだけ正直に言ったことがありまして……」

「え?」

「聞かれたんです。その……冬香さんのことが好きなのかって」

「それは……」


 香織はどちらかと言うとそのことの方が気になっているようであった。お花だけの知る事実であるが、彼女はずっと年上の花菜のことが好きだ。だからお花もそうなのか知りたかったのである。


「お花はその子になんて、言ったの……?」


 正直に答えた、というお花の言葉に冬香は小さく息を呑んだ。それを教えて貰うということは彼女の気持ちを知ることになるのである。以前、突然に関係を切られた相手の事を思い出しす。

 しかし、聞かないというわけにはいかずにお花の言葉を待った。


 そして、お花は地面に視線を落として呟くように言った。


「………………好き、だって、伝えました」


 え? と冬香が視線を向けるとそこには紅葉と同じくらい頬を赤くしたお花の姿があった。

ブックマークや評価、感想や誤字脱字報告などいつもありがとうございます!

次回の投稿は4/7の20時頃を予定しております!

どうぞよろしくお願いいたします!


※申し訳ありませんが、多忙と急用が重なり更新が出来なくなりました。

次回の更新は3/11の20時頃を予定しております!

すみませんが、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ