35.会社の行事
それからというもの、冬香は出来るだけお花と対等の関係を築けるよう心掛けていた。
お花は相変わらず多少遠慮がちではあったが、以前と比べると少しは肩の力を抜くようにはなっているんじゃないかと冬香は感じていた。
そんな、夏が終わり本格的な秋を迎えた頃だった。
「紅葉狩りに行かない?」
突然冬香がそんな提案をしてきた。お花は一瞬呆気に取られたがすぐに嬉しそうな表情を浮かべる。
「いいですね。そういう場所があるんですか?」
「うん、ちょっと遠出することになるけど。ただ一つ問題があってね……」
「問題ですか?」
「二人きりじゃなくて会社の行事的な奴なんだよねぇ」
冬香はそう言って説明を始める。
彼女の会社では毎年季節ごとに参加者を募って行事を催している。春は花見をしたり、夏にはバーベキューをしたりなどなど、その時期にあった様々な催しだ。
それで今年も例に漏れず秋に紅葉狩りをする運びとなった。だいぶ以前から決まっていたようで社内報でも出ていたようだが冬香は色々と忙しく最近まで気づいていなかったのだ。
それで花菜から突然言われたわけである。
『そういえば柊さんって紅葉狩りは参加するんすか?』
当然の如くそうした行事は休日に開催されるので予定は問題ない。今までそういうのには乗り気はないものの参加していた冬香だったが今年はお花がいる。もしも彼女が行きたいと言ってくれれば少しはやる気も出るというものであった。
「親戚とかも参加オーケーだから問題はないんだけどどうする?」
「ちょっと行ってみたいとは思いますけど……でも以前会社の方と会った時に私は休みで遊びに来てるって説明してましたよね?」
「そ、そうだっけ。まあそれは秋休みか何かで来てるって言えば大丈夫よ。そんなガッチリした集まりじゃないし」
「そうですか? それなら行ってみたいです!」
「じゃあ決まりね。来週の日曜日だから覚えておいて」
「はい!」
快い反応に冬香も少し嬉しくなる。もしお花が行かないとしても一応会社の行事には参加しないといけないので彼女を残して行くことになる。それはちょっとつまらないし申し訳なかった。
「じゃあお弁当とか用意しないとですね!」
「あ、そっか。持ち込みも確かオッケーだったなぁ」
大体はオードブルを頼んだいたり、直前にまとめ買いしたものを持ち込んで適当につつくのが恒例だったが、個人的に作って持ってきて来てる人もいた。それなりの人数が参加するのだから皆で食べれる物を作っていくのは喜ばれるかもしれない。
「それじゃ、一緒に作ろうか。質よりも量って感じで色々と満遍なく」
「そうですね。ちょっと考えときます!」
お花は楽しそうだ。お出掛けできるのが楽しみなのかわからないが喜んでくれて冬香も嬉しくないわけがない。他人と関わる場所に秘密とは言え同棲しているお花を連れて行くのは不安ではあるが、たくさんの人数が参加するわけだし、集中して注目を浴びることはないだろう。
(楽しめればいいなぁ)
既に献立を考え始めてウンウンと唸るお花を見ながら冬香はそう思っていた。
冬香は大きな行事自体はあまり好きではないが、それまでの準備期間は実は好きである。
「やっぱり定番だけどおにぎりとか、後は揚げ物系が喜ばれるかな」
「唐揚げとかそういう類ですか?」
「そうそう。お酒飲む人も多いからつまみ系だとすぐなくなっちゃうかも」
「へぇ……冬香さんはお酒は飲むんですか?」
「私はそんなには飲まないつもり。帰りもあるし酔いどれたらお花にも迷惑だから」
「それなら一つお願いがあるんですが……」
お花は最近こうしてちょっとしたお願いを言うようになった。冬香的にはもっと沢山要望を投げて欲しいと思うところだが何事も小さな一歩からと言うし、良い傾向だろう。
「お願いって何? あ、お花はお酒は駄目よ。 流石に飲める年でも設定的にも見た目的にも無理だから」
「いえ、お酒はいいのですが……ちょっと途中で少し抜けれませんか?」
「え? 抜けるって……」
「は、はい。その……無理ですか? 一緒に紅葉を楽しみたいのですが……」
「……それは無理じゃ、ないと思うけど」
不安そうな目で見上げてくるお花に冬香はちょっとたじろいだ。あまり彼女らしくない距離の詰め方に驚いたからだ。
だけど、紅葉を一緒に楽しみたいのは冬香も同じだ。会社の人に囲まれていたらそれどころではないだろうし、悪い考えではない。
「うん、わかった。途中で少し二人っきりになろうか」
「は、はい! ありがとうございます!」
何にせよお花が喜んでくれるならそれでいい。冬香はそう思って頷いた。
そして、遂にその日がやってきた。
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