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お狐ちゃんのお嫁入り  作者: 熊煮
4章:秋になりまして
33/50

33.本当の本性と気持ち

 お花は沈黙してしまった。言葉が出ないのかその瞳が不安げに揺れているのだけは冬香にもわかった。


「あのね、別にお花がどうだからって何か言うつもりはないから」


 冬香は一度そう断って続ける。


「その……任氏さんって人がお花はちょっとおっちょこちょいとか人見知りとかって言ってたけど、それは本当なの?」


 お花は言葉の代わりに弱く頷いて答える。それは肯定の意味で、冬香は信じられないと言ったように驚いた。


「あ、あのね、別にそれについてどうこういうつもりはないのよ? ただ、お花は十分に何でも出来ると思ってたからちょっと驚いただけで……」


 冬香はそう言って訂正した。するとお花は落ち込んだまま弱く口を開く。


「……私、ずっと練習してきたんです。愛想を尽かされたら私達はもう行くところがなくなっちゃうので」

「ど、どういうこと?」

「そのままです。一度里から出るとしばらくは帰れないんです。だから気に入ってもらえるように必死に勉強したりして……」

「そんなことが……」


 それは全く知らないことだった。冬香の考えでは例え相手との仲が決裂しても普通に帰るのだとばかりに思っていた。妖狐事情何て知るわけはないが予想以上にシビアだ。


「しばらく帰れないってのは」

「基本的に選ばれた相手の生が終わるまで、です」

「その間に別の人のところにってのは」

「禁止、されています……」


 勿論相手側の決まりを知っているわけではない。にしたって中々に酷い話である。現に奇跡的にも冬香とお花は良好に近い関係にあるとしても、もしかしたらどこかで食い違って最悪の関係になっていた可能性もある。


 そうなった時、お花はどうするつもりだったのか。というよりお花はそうならないように準備してきたのだ。


「ごめんなさい、騙すつもりはなかったんです。ごめんなさい……」


 そう言ってお花は首を垂れる。彼女にとってはそれは大きな問題でバレてしまった以上追い出されてしまうことも覚悟しているものだった。

 だけど、そこで初めて二人の間に食い違いが発生する。


「別にいいけど」

「え?」


 冬香のその言葉にお花は思わず顔を上げてしまう。ぶっきらぼうな一言であったがその声は優しいもので、どれだけ怒っているのかと思い込んでいたお花は、冬香のどこかホッとしたような顔に困惑することになった。


「お、怒らないんですか? だって、今まで隠してたんですよ?」

「隠してたってことは確かにちょっとアレだけど……誰だってそういうところはあるし、それに悪いことをしてたわけじゃないでしょ」


 そう言って冬香はお花の頭を撫でる。一瞬、ビクリと反応したお花は優しい撫でに戸惑っているばかりだ。


「でも、任氏様から聞いた通りで……私、本当は何も出来なくて、それに緊張しいなんです」

「まだ私にも緊張はしてるの?」

「ちょ、ちょっとだけ。最初はもっとでしたけど、冬香さんは優しいですから最近は少しだけ慣れてきたとは思いますが」

「そっかそっか」


 ペタリと閉じてしまった狐耳を軽く巻き込んで頭を撫で続ける。その表情が偉く満足気なことにお花は困惑しながら口を開く。


「あの、まだ私はここにいてもいいんですか……?」

「当り前でしょう。というか今出て行かれたら私は死んじゃうから。本当に」

「でも、また失敗するかもしれませんし……」

「いいよいいよ。寧ろもっと失敗すればいいじゃない」

「え!?」


 そう言うと冬香はギュッとお花を安心させるように抱き締めた。


「ふ、冬香さん?」

「私としてはお花が無理をして頑張ってる方が嫌」

「は、はい?」

「勉強や努力でそこまで出来ることは凄いと思うんだけどさ、それって結構無理してるわけでしょ?」

「それは……でも、役に立たないといけないですし」

「それ自体が嫌なのよね。今更な話だけどお花が何も出来なくたって失敗ばかりしても放すつもりはないから」


 抱き締めているお花の体は強張っていた。この緊張がいつか完全になくなるといいんだけどと冬香は苦笑しながらゆっくり開放する。


「何でも出来るお花も凄いと思うし努力してきたとは思うけど、私としては今みたいなありのままのお花も好きだからさ。もっと力抜いていいよ」

「でも、でも……」

「これからは料理も掃除も洗濯も全部一緒にやりましょう。私も何でも出来るからって頼りっぱなしだったわ、ごめんなさい」

「そんな! 冬香さんが謝ることなんて……!」

「お花はもう私を十分に助けてくれたから。これからは私の番」


 お花のおかげで傷ついていた心も日常生活も会社も変わった。それを今度は返していく番だと冬香は改めて思うと、お花と見つめあう。


「だからさ、これからもよろしくねお花」


 そう言われたお花はどうしたらいいのかわからないのか最初はオロオロとしていたが、やがて小さく頷いてちょっとだけ冬香に寄り添って答えた。


「こちらこそ……よろしくお願いします……」


 それから、二人の関係はちょっと変わることになった。

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