29.神社にて邂逅
いつも元気で明るいお花が落ち込んでいる姿は珍しい。冬香は結局どう声をかけていいかわからず、二人とも無言のまま電車に揺られ続けている。
目的地の神社まではそう遠くはない。しばらくして神社最寄りの駅に着いたので二人は揃って降りる。
ここら辺は田舎で特に目立った観光名所もなく人は少ない。冬香からしてみればあの大きな神社はけっこうな名物になりそうだが、そういう話はなさそうだ。
(まあ別に広めたいわけじゃないけど)
何となく冬香もあの神社が普通の場所ではないことはわかっていた。でなければお花とも出会うことはなかっただろう。
「じゃ、じゃあ行こうか」
「はい……」
お花はさっきよりはマシだが、まだどこか気落ちしているようだった。流石に神社まで歩く道中が無言だと寂しいので冬香は話題を出す。
「少し気になってたんだけど、あの神社って何か特別なの?」
「え? 神社ですか?」
「うん。だってどこの神社でもあんな風にお花みたいな妖狐と出会えるわけじゃないでしょ?」
もし、どこの神社でも出会えているなら今頃日本は妖狐だらけに違いない。動物好きな冬香からすればそれはそれで悪くはないのだが。
お花は少し考えてから答える。
「そうですね……私も詳しくはわからないですけど、私達の里と繋がりやすい神社が日本にはあるみたいです。一つではないですけど、たくさんあるわけでもないとは思います」
お花の話によれば、彼女のように里を出て行く妖狐は定期的にいるらしいが、それは世界各国に散っているようだ。
「じゃあ、もしかしたら偶然他の子にもあったりしない?」
「うーん、どうでしょうか。時代も結構バラバラなので」
「……へ?」
しかし、ここでお花から衝撃事実が飛び出す。彼女らが訪れる場所は世界各地だがその年代はズレるらしい。それこそ何千何百年前の時もあれば、今より未来に行っている妖狐もいるということだ。
歴史の話でも妖狐を扱ったものがある。中には悪い妖孤の話もあるのでそれがお花と同じ場所から来たとは限らないが、話のスケールがいきなり大きくなりすぎてポカンと呆気にとられていた。
「ふふ、そんな気にしなくても大丈夫ですよ。もしも日本にいたとしても一人か二人ぐらいでしょうし」
そんな様子の冬香に少しだけお花は表情を和らげた。結果的に少しだけ彼女が元気になったので冬香も少しだけ安心した。
そのまま二人は歩みを進め例の神社へと辿り着いた。相変わらずあの時と同じように神社は綺麗な割に無人である。少しだけ不気味だ。
「で、どうすればいいんだろ?」
「冬香さんはどこかで待っていてもらってもいいですか? そんなに時間は掛からないと思うので」
「わかった。じゃあ前と同じく賽銭箱の前の階段付近にいるよ」
そう言ってお花と別れた冬香は以前と同じく、神社の中にある階段に腰かけた。いつの間にかお花はいなくなっていたが、それが彼女がここではない場所に戻っているということなのだろう。
「はぁ……う~~んっ」
静かになったそこで冬香は大きく伸びをして空を見上げた。今日は晴れており雲が少しだけ浮かんでいるが綺麗な空が広がっている。
「お花、大丈夫かなぁ」
電車の中で見た彼女の姿。冬香から見たお花は真面目でしっかり者で、いつも明るい健気な少女だ。しかし、それが彼女の全てではないのかもしれない。そんな感じで物思いに耽っていたら女性の声が境内に響いた。
「ふふ、お悩みのようですね?」
「ふえ?」
ふと、気が付いたら……冬香は霧の中にいた。霧の中というよりは神社が濃い霧に包まれているのだ。
「え、ええ!?」
座っていた階段から慌てて身を起こして冬香は周りを見渡した。頑張っても数歩先ぐらいまでしか見えないと流石に怖い。
そんな冬香に再び静かな声が掛けられる。
「どうぞ落ち着いて。別に取って食おうというわけではありませんから」
「だ、誰ですか?」
「あら、お花から聞いてないかしら?」
さっと別れた霧の中から現れたのは冬香よりもずっと大人に見える女性、ただし狐の耳と九本の大きな尻尾が生えている美しい女性だった。
纏っている雰囲気が明らかにやばい。純粋な人ではない異質な存在に冬香はただボーっと見つめることしか出来なかった。
その女性は石畳の上を優雅に歩き、冬香の前まで来ると軽く頭を下げて挨拶をしてくる。
「初めまして。任氏、と申します。いつもあの子がお世話になってます」
「え、あ、ああえええっと、ど、どうも……」
お花が現れた時は何人か他の妖孤もついてきていたが、彼女は一人だった。周りには誰もおらず冬香と二人きりだ。
「ごめんなさいね、急に現れて。ただどうしても確認しておきたいことがあってねぇ」
「は、はぁ」
身長も冬香よりずっと高くスラッとしている。何というかモデル体型というのだろうか、見事な着物も相まってどこか人間離れした美しさがあり、冬香は気後れしそうであった。
そんな彼女はいったい何を確認したいのだろうか、冬香にはわからない。
(ま、まさかめっちゃモフモフするのって駄目だった!? いや、でもお花も嫌がっている感じじゃなかったし……他は、家事任せっきりとか……いやあれも本人の希望だし。あ、それがダメとか!?)
冬香の中で色んな思考が交差しあうが、しかし任氏から語られた言葉はとても予想外なものだった。
「あの子が何か迷惑をかけてないかしら。何せ極度の人見知りだしおっちょこちょいだし、抜けていることもあるから失敗ばかりじゃないかしら」
「……は?」
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