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お狐ちゃんのお嫁入り  作者: 熊煮
3章:夏の訪れ
24/50

24.風邪ぐらい引きます。人間ですから

 冬香は風邪を引いてしまった。それはもう見事としか言い様のないタイミングで見事なまでにしっかりとした完璧な風邪であった。


「う、うぅ……」


 喉がイガイガする不快感と発熱による怠さ。夏だと言うのに寒気を感じる体は明らかに不調を訴えている。


 ピピピピ、と腋に挟んでいた体温計が測定終了の音を出す。お花はそれを冬香から受け取り確認したが、その顔が驚きに染まる。


「38度もあるじゃないですか……昨日はそこまでひどくなかったのに」


 事実として、ここ最近冬香の調子は微妙であった。ただ体調が怠いとかでそれぐらいなら大丈夫だろうと高を括っていたのだ。

 しかし、それがこの有り様である。


「うー……とりあえず飛行機キャンセルと……あと家に連絡しなきゃ……おはなぁ、携帯とって……」

「は、はい……!」


 流石にお花が代わりに電話をするわけにはいかない。慌ててスマホを充電ケーブルから抜いて冬香に渡す。


「……はい、すみませんがキャンセルで……はい、はいわかりました」


 まずは航空会社へ連絡、そして次は実家の順番だ。


「もしもしお母さん? ……うん、私。あぁその、風邪ひいちゃってさ。うん、ごめん今回は帰れなさそう……え、大丈夫大丈夫、看てくれる人はいるから……」

「え?」


 通話の中で冬香から出た言葉にお花は反応した。それは「言っちゃっていいの?」という意を含んだものだ。

 案の定、スマホから聞こえる声が明らかに大きくなった。実家にいる通話相手の母に何かを言われたのか、彼女は風邪で赤い顔を別の意味でさらに赤くした。


「はっ!? いや、ちがっ……! 良い人とかじゃなくて、いや、そういうわけじゃ……! と、とにかくもう病院行かないとだから! またね!」


 もし受話器を持っていればガチャッ! と叩きつけていたに違いない。冬香はそんな風に息荒く通話を終えた。

 息が荒いのは勿論風邪のせいもあるのだが、顔もかなり赤くなっている。お花は心配になって声を掛ける。


「あの、大丈夫ですか……」

「だ、大丈夫。いや、体調は全然大丈夫じゃないんだけど……」


 ため息にも辛い呼吸が混じっているようでお花は気が気ではない。ただ不幸中の幸いというか今日が連休の初日で三日は休み、しかも上手く土日が続いてくれたので5日は余裕があることだった。

 高熱で食欲はないのか水だけ飲んだ彼女は時計を見る。


「病院は、駅の近くにあったわね……」

「あ、歩いて行くんですか? 危ないですよ!」

「だ、大丈夫タクシー使うから……流石に……」


 よぼよぼと力なく冬香は着替えていく。お花もワタワタと慌てながらそれを手伝っていると、冬香は弱く呟くように喋る。


「お花は……風邪移ったりしないの?」

「私達はそもそもが人とは違うので……そういう病気は罹らないと思います」

「そ、そうなの。それならよかった……ちょっと病院行ってくるからしばらく留守番お願いね」


 着替えが終わり、財布やら保険証やらを確認した冬香はフラフラとした足取りで家を出て行こうとする。あまりにも痛々しい姿にお花はタクシーに乗るまでは付き添うことにした。ついでに懐に買い物用に渡されている財布を入れて。


「うぅ、まさかこんなピンポイントで風邪を引くなんて……」

「実家に帰れなくて残念でしたね……」

「まぁ、帰る機会を失くしたのはちょっとね……でも一番は休日が潰れちゃうことが痛い……本当に痛い」

「それは本当に、ご愁傷様です……」


 いつも仕事で忙しい彼女にとっては連休ともなれば至福の一時なのである。それが数日は間違いなく潰れてしまう事実をまだ受け入れられないようであった。


 冬香の住むアパートから少し歩くと大通りに出る。タクシー乗り場はないので冬香はそこからタクシーを呼ぶことにする。


「はい、はい。そこで……はい、お願いします」


 電話を終えてからすぐにタクシーがやってくると、冬香はそこに辛そうに乗り込み病院までと行き先を運転手に告げる。


「それじゃ、ちょっと時間掛かるかもしれないから……鍵はちゃんとかけといてね」

「は、はい。お気をつけて」

「じゃ、行ってきます……」


 冬香がそう言うとタクシーは出発していった。駅近くならそんなに時間も掛からないだろうし、彼女自身の事は後は病院に任せるしかない。そう考えたお花は次に自分に何が出来るかを考えた。

 まぁ、やれることはある程度決まっているのだが。


「とにかく買い物、ですね」


 人が病気になるということは既に学習済みである。風邪に罹った時どういった食事を用意するべきか、どんな環境を整えるべきか、頭の中でそれを整理した彼女はそのまま歩き出した。勿論向かう先は家ではなく、駅前のデパートである。


「こういう時に支えてあげないと……急ぎましょう」


 病院にどれくらい時間が掛かるかはわからないが、冬香が帰った時にお花がいない状況を作るわけには絶対にいかない。病人である冬香を慌てさせないためにも、お花は買い物を急いだ。

ブックマークや評価、感想や誤字脱字報告などいつもありがとうございます!

特に投稿作品に対して最近たくさんの誤字報告を頂いております。見直しが足らずに迷惑を掛けて申し訳ありません、また報告して頂いて本当に感謝しております!


次回の投稿は2/7の20時頃を予定しております!

どうぞよろしくお願いいたします!

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