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お狐ちゃんのお嫁入り  作者: 熊煮
2章:狐の少女と春模様
19/50

19.お花と花見(予定)

 半ば強引であったがモフモフ権を手に入れた冬香は、精神衛生上かつてないほど輝いていた。


「んふふ……」

「うわ気持ち悪」


 後輩の花菜から容赦ない悪態をつかれても今の冬香は反応しない。それぐらいお花の尻尾と耳は彼女に癒しを与えたのだ。


「なんですかどうしたんですか、月曜日に上機嫌な柊さんってありえないんですけど……」

「ふふふふふ」

「あ、これ実はダメなパターンとか?」


 尻尾を触られているときのお花は少しくすぐったそうに身をよじっていたが冬香には関係なかった。元々動物が大好きな彼女にとってお花の動物的部分は魅力的でしかなく、その許可が出た昨日は本当に気が済むまで尻尾と耳を堪能した。


「はああ、帰りたいなぁ」

「まだ始業したばっかですよ……本当大丈夫ですか」


 当然事情を何も知らない花菜は困惑するしかないが、お花畑状態の冬香には追求してもどうしようもないとわかっているのか、それ以降は生温い目を向けているだけだった。


 しかし、時間が経ってある程度は落ち着いてきた冬香は急に恥ずかしくなったのか机に突っ伏した。


「その、ごめん。ちょっと色々あって」

「でしょうね。柊さんのあんな惚けた表情初めて見ましたし」

「お願いだから忘れて……」


 そんな彼女らの前ではこの前入った新入社員たちの姿があった。社外研修が終わって今日から本社での勤務になるのだ。


「わー、初々しい」


 かつて自分もあそこに立っていて、これからの生活に期待していたのは昔の話。今となってはそれはとんでもない夢物語だったと思わざるを得ない。

 そんな感傷に浸ったその日、冬香は20時に退社した。この会社ではそれなりに早いほうである。


「お疲れさまでしたー」

「あれ、早いっすね」

「もうやることはやったからね。貴女もやることないなら上がったら?」

「うーん、まぁ柊さんが上がるなら帰ろうかなぁ」


 うーん、と伸びをした花菜は冬香と同じく帰る支度をする。この会社基本的に定時という概念はあるのだが本当に概念だけで、まだ残業をしている人は多い。繁忙期でもないのに何故かそうして残る人が多いのだが、別に早く帰ろうが咎められることもない。


「新しい子達、早速残業してましたねー」

「残業、というか今日教えてもらったことを復習するのよね……何だか懐かしいわ」


 冬香が新入社員として入った時もそうだった。本社で学んだことを残業と言う名目で残って復習するのである。確かにそれは必要なことだとも思うのだが、わざわざ残ってまでするのかと疑問には思っていた。

 勿論、それを口に出すことはしなかったが。


「じゃあまた明日、お疲れさまでした」

「はい、お疲れ様ー」


 会社前で花菜と別れた冬香はすぐに帰路についた。恐らく待っているであろうお花と、彼女の尻尾と耳を思い浮かべながら。



「花見、ですか?」


 その日、その話題は唐突に出た。季節は春でありそれこそ花見ピークの時期。


「そもそも花見って知ってる?」

「は、はぁ、桜の鑑賞会ですよね」

「そうそう、やったことはあるの?」

「はい。故郷では毎年盛大にやってましたよ。美味しい食事とお酒を用意して騒ぐんです」


 お花の里でも同じようなことをやっていると聞いて冬香はこちらでも同じことをしないかと提案した。

 単純な思い付きであったが思ったよりお花には嬉しい提案だったようでパタパタと尻尾が左右に振れる。


「それじゃ次の休みの日行こうか。電車に乗ることになるけど」

「あの大きな乗り物ですね。遠いんですか?」

「いや、そんなにかからないけど乗り換えとかあるからちょっと複雑かも」


 食後の時間を見る使って冬香は一応移動ルートの説明をしていく。どうせ行くときははぐれないようにするつもりではあるが説明しておいて損はないだろう。


「それでこの駅で降りるの。後、花見って言うけど座ってのんびりじゃなくて歩き回るタイプだから」

「え、そうなんですか?」

「そうそう。並んでいる桜を通路に沿って歩きながら見ていくの」


 東京でも有名な花見スポットの一つ。当たり前のように人は多いだろうが花見をするだけなら問題ない。場所を変えればシートを広げることの出来るスポットもあるが夜にお花と二人っきりでするのは女性二人だとちょっと危ないし、かといって会社の人を誘うわけにはいかない。それでこの形で落ち着いたのだ。


「へー、そういうものなんですね……わかりました! 楽しみにしてます!」

「う、うん」


 別にそこまで構う必要なんて……と冬香は思うものの、生活を助けてもらってるし何より尻尾や耳を好き放題させてもらっているのでそのお礼ぐらいはしないといけないと思っているのだ。


「じゃ、じゃあ次の休日はよろしく」

「はい!」


 思えばずっと忙しくて花見何て何年も行ってなかった。それに気づいた冬香は少しだけ、ほんの少しだけ花見が楽しみになっていた。

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