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お狐ちゃんのお嫁入り  作者: 熊煮
2章:狐の少女と春模様
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16.お花、お金の価値を学ぶ

 昼食が終わってから冬香はお花を連れて駅前のスーパーに足を運んでいた。


「前も来たけど……今日はお花にお金の使い方を教えるから」


 冬香の狙いはお金の価値を教えて彼女に生活用のお金を渡すことだ。幸いにも仕事に生活を囚われていたせいか貯金はいつの間にか溜まっているから問題はない。


「冬香さんの持っているお金は小さいですね」

「こっちでは普通だから。とりあえず硬貨は6種類あってあとは札が……」


 硬貨とお札を見せて説明する。以前に来たときはお花が買いたいものを選んで冬香が買っただけなので今回が初めてとなる。


「ほうほう、へー」


 お花は冬香と一緒にスーパーを歩きながらお金の価値と物の相場を学んでいく。冬香から見てお花は賢い方だと思っていたが、それは間違いではなかったようで彼女はドンドンと知識を蓄えていく。


「なるほど……大体わかりました!」


 そしてしばらく経てば、あっさりとお花は日本の通貨を覚えてしまった。そんなに難しくはないだろうが、お花が今まで使っていた通貨と違うのだ。


「本当にわかっちゃったの?」


 年齢からして子供だとは思っているわけではないが、それにしても理解が早すぎる。しかしお花が誤魔化して嘘を言うとは思えないので、冬香は提案する。


「じゃあとりあえず買い物をやってみてよ」


 明日からお花には一人でも外出してもいいようにするつもりだ。その前哨戦(?)として一人で買い物をさせてみることにした。


「いいんですか?」

「うん。今日の夕飯はお花に任せるから好きに買ってみて」


 今日の、とは言うがどちらかといえば「今日も」が正しい。お花が来てから冬香の食事は全てお花が面倒を見ているのだから。


「わかりました。献立も決めていいんですか?」

「いいよ。あ、でも財布の中身は超えないでね」


 無駄に高級な物をたくさん買わなければ大丈夫なくらいは入っているが一応冬香はそう忠告した。


「じゃあ今日は……」


 お花は財布の中身を確認してから食材を籠に入れていった。正直生活面に関して頼りっぱなしになっていた冬香はここで何らかの助言をするつもりだったのだが、悲しいことにお花は何のミスもしないまま、初めての買い物を至って普通に済ませてしまった。


「ちょっと混乱しましたけど、無事に買えました!」

「そうね……」

「どうしたんですか?」

「い、いや何でもないの。じゃあ帰りましょう。後はゆっくりして過ごしたいし」


 買い物を済まして帰路につく。休日で人通りは多く、家族連れからカップルまで幅広い層とすれ違いながら歩く中、お花を伴って帰る冬香は何とも言えない気持ちだった。


(この人たちの中で私とお花の関係をわかる人はいるのかな……)


 傍から見れば年の離れた姉妹か、下手すると親子と見られてもおかしくはないかもしれない。少なくとも少女の方がお嫁さんなどと想像する輩はいないだろう。


「帰ったらどうしますか? まだ夕食までは時間がありますけど」

「うーん、ゴロゴロかな。とりあえず横になりたい……」

「え、寝るんですか?」

「んん、横になってグータラするだけ」

「は、はぁ……?」


 お花には冬香の言葉はあまりわからないらしい。お花は今までキッチリとした生活を送ってきていたため、昼寝をするという習慣がピンとこない。


「お花も疲れたでしょ。しばらくゆっくりした方がいいよ」


 そのまま彼女たちは何事もなく家に辿り着いた。買った物を整理してから冬香は特に目的もなくテレビをつける。よくわからない通販番組をやっていたが環境音としてつけただけなので特に見るわけではない。


「ふあー、疲れた」


 お花が見ている前で冬香は敷きっぱなしの布団にそのまま寝転がった。お花が来る前の休日だとこれが普通だ。


「あ、あの」

「お花もゆっくりすればいいよ。夕食まで時間はあるし」


 暗に夕食は任せているという情けない発言だが、今までだらけて過ごしていた癖か、冬香自身そのことに気づかない。


「え、ええー……」


 そのまま横になってしまった彼女にお花は困った声を出した。当たり前だが家に帰ってきてから彼女は隠していた耳と尻尾を出している。そこで冬香はあることに気が付いた。尻尾のせいでワンピースが大きく捲れているのだ。

 家の中ならいいが捲れ方が大きく、下着も新しく買ったのもつけているので視覚的にあまりよろしくない。冬香はちょっと目線を逸らしながら質問する。


「そういえばその尻尾とか耳ってどうやって隠してたの? それも妖力ってやつ?」

「そうですよ。でも隠しているというより見えなくしているだけなんです」


 お花はそう言うと尻尾だけを消した。しかし、着ているワンピースは相変わらず捲れていた。


「こんな風に透明になってるだけで消えているわけじゃないんです」

「そうなんだ……って、じゃあさっきから帰ってくるまでずっと捲れてたの!?」

「いえ、あの時は服の中にいれこんだので……こうやって、うんしょ」


 お花はそうやって尻尾を畳む。勿論今は見えていないので冬香の視界では彼女の背中部分が多少膨れて見えるだけだ。ちょっと不自然だが捲れるよりは100倍ましだ。


「そっか。ま、まぁ大丈夫でしょう。うん……でも和服の時は全然気づかなかった」

「あれはそのまま中で押し潰しているんです。こういうふわっとした服だと目立っちゃいますね」

「うーん、何も考えずに買っちゃったな。大丈夫かな」

「それは大丈夫ですよ! 折角買ってもらいましたし、何とかうまく誤魔化します!」


 それはそれで何だか不安になる冬香だ。しかし、膨らみを出さないために服に穴をあけて尻尾を通すわけにも行かない。そんなことをすれば他人から見ればただの穴あきワンピースである。

 そんな一抹の不安を感じて少し考えようとした冬香だったが、今はどうすることも出来ないので結局ぐうたらすることにした。


 部屋に響くのは通販のテンション高めの声だけで、何だかいつもの気怠い休日みたいだった。大体昼寝で夜までダラダラと過ごして、その後適当に近くのスーパーに弁当を買いに行くだけの休日。


「……どうしたの?」


 だけどいつもと違うのはお花がいることだ。彼女は横になっている冬香の傍までくると一度大きく欠伸をしてそのままコテンと倒れこんできた。


「冬香さんを見てたら私も眠たくなってきました……」


 お花も今朝はアパレルショップの店員に着せ替え人形にされていたし、何だかんだ歩き回ったせいか疲れているようだった。きっと家に帰ってからそれが出てきたのだろう。着替えるつもりもなさそうだ。


「ふぁ、あ……」


 いつも寝ている姿勢と違い、お花は猫が寝るように上手く体を丸めるとそのまま目を閉じた。


「そういう寝方もするんだ……」


 お花は目を閉じてからすぐに寝息を立てだした。それにつられて冬香も睡魔に襲われてその意識を手放すことになる。

 ただ一つ失敗だったのは、目覚ましをかけなかったことなのだが、それに気づくのは完全に陽が落ちて一緒に寝たお花の悲鳴が聞こえてからだった。

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次回の投稿は1/6の20時頃を予定しております!

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