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お狐ちゃんのお嫁入り  作者: 熊煮
2章:狐の少女と春模様
13/50

13.変わりつつある生活とは

すみません、少し更新遅れました。

「むううぅーーー……」


 後輩の花菜の唸り声と疑いの視線に冬香は今日何度目かのため息をついた。


「だから、何もないって言ってるでしょ」

「いーえ! 絶対何かあります! だっておかしいですもん、水曜日になってまだ死んだ魚の目になってないなんて!!」

「地味に失礼よね貴女……」


 お花が来て最初の週。今日はその中間地点でもある水曜日だ。

 当たり前のように月曜日も火曜日も帰りは遅かったし、モチベーションなんて元からしてあったもんじゃないが不思議と冬香は気怠い疲れはあまり感じていなかった。


「いつも水曜日と木曜日で死にそうになってて、休み前の金曜日でほんのちょっとマシになる柊さんはどこに行ったんですか!?」

「知らないわよ……いいでしょ別に、たまには元気でも」


 そんな冬香の様子を見抜いた花菜は朝っぱらから絡んでいるわけである。ちなみに冬香の印象では彼女はいつも割と元気だ。羨ましいことに。


「柊さんが元気なのはいいです……が! 問題はそこじゃないんですよ!」


 花菜はそこまで言うと少し声量を下げニヤニヤしながら呟く。


「……もしかして彼氏さんとか出来たんじゃないんすかー?」


 一瞬、ギクリと冬香は反応しそうになった。出来たのは彼氏なんかではなく過程をすっ飛ばした花嫁ではあるが、彼女がいつもと違って少し元気なのはそのお嫁さんが一因には違いない。


「べ、別に彼氏とか出来てないわよ。ただ、そう……早寝早起きとちゃんとご飯を食べるようにしたってだけ」

「えー、そうなんですかー? 柊さん結構人気あるからもしかしたら社内恋愛してるのか期待してたのに……」


 そう言って花菜はがっくりと項垂れた。


「何勝手に期待して勝手にがっかりしてるのよ。というか人気ってなに?」

「そのままの意味ですよ」


 実際のところ、花菜の言ったことは過言ではない。

 本人はまったくそんなつもりはないのだが、毎日文句も言わず黙々と仕事をして、彼女の上司のように誰彼あたったりもせず穏やかそうで、それでいてそこそこ容姿は整っているのだ。

 繰り返し書くが本人にはそんな風に振る舞っているつもりはまったくなくても、周りは勝手にそう認識しているわけである。


「ほら、馬鹿なこと言ってないでちゃっちゃと仕事する。少しでも早く帰るわよ」

「……早く帰るって、誰か待ってるからじゃ?」

「…………ご飯が食べられないからよ」


 花菜の瞳は益々疑いの色を強くしていたが、冬香は黙秘権を行使して何とかその場を切り抜けた(?)のであった。



「お帰りなさい!」


 アパートに帰りついたのはやっぱり10時前。ただ今日この時間になったのはスーパーによって食材の買い出しをしてきたからだ。


「わ、すいません。こんな買ってきてもらって」

「いいのよ。私もお花を閉じ込めてるようなものだし……あと2日待ってね」


 お花とは土曜日に買い出しに行くついでに、一人で外に出る時やお金の使い方、それと出掛ける用の服などを買い揃える予定だった。

 ということはそれまではお花を家に軟禁しているようなもので冬香はそれが申し訳なかった。


「大丈夫ですよ! お部屋の掃除もありますし、「てれび」も見てますから!」

「そう……テレビって何を見てたの?」

「今日はお昼に「えいが」というものをやってたので、それを見てました。鮫がたくさん出るものです」


 何かパニックものかなと思いながら、それなりに自由にしてくれているようで冬香は少し安心した。

 まだお花を完全に迎え入れたわけではないが、しょうがないほどお人好しな冬香が彼女を外に放り出すことは出来るわけはなく、実生活が忙しいのもあって「しょうがなく」という言い訳の元、家においているつもりだった。


(きっと彼女もいつか離れるんじゃないか……)


 冬香の根底にはどうしてもその思いがこびりついていた。前の彼女から振られたことが無意識にトラウマになりつつある。


「さ、お風呂どうぞ。ご飯用意しておきますね!」

「あ、ありがとう」


 しかし悲しいことに僅か数日で冬香は既にお花がいる生活に染まりつつあった。


(しょうがないじゃない! 家に帰ってお風呂が沸いてて美味しいご飯があって、ニコニコ顔の可愛い女の子がいるんだから!)


 狐耳も尻尾も冬香からすれば加点対象でしかない。

 最近はお風呂上がりのお花にドライヤーをするようになったので、その時に思う存分もふれるし、しかも大体お花が寝落ちするのでしばらくもふり放題なわけだ。

 尻尾を触りながらゆっくりと眠る感触を、冬香はもう突き放せそうにない。


 そんな風に過ごしながら冬香はお花との一週間を過ごした。相変わらず仕事はだるかったが家事をお花がやってくれたおかげか、いつもより捗った気がしていた。


 そして土曜日を迎える。


「じゃあ、行きましょうか」

「はい! よろしくお願いします!」


 お花にこちらでの生活を教えるための土曜日が始まった。

ブックマークや評価、感想、誤字脱字報告などいつもありがとうございます!

次回の更新は12/25の20時頃を予定しております!

どうぞよろしくお願いいたします!

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