孤軍奮闘
3.孤軍奮闘
僕は再び東蟷螂島に向かった。
そしてその夜、僕は悪夢にうなされて起きてしまった。
また甲板にでて外の空気を吸いに行く。一人で来たからか、この前三人で来た時よりも寂しく、悲しく思えた。風もなんだか冷たかった。
そのまま一睡もすることなく甲板の上で朝を迎えた。
船が島に到着し、すぐさま神社の側のコンビニに足を運んだ。
コンビニに売っているマッチは赤いベースに青い文字の箱、一種類しかなかった。その銘柄を覚えて花火をやった場所へと向かう。
やっぱりここの風景を見ると当時を思い出す。あまり思い出したくない悪い思い出。
なるべく深く考える前に調査を終わらせよう。
十年前、僕らが花火に着火させるために使ったのはマッチではなくライターだった。
僕らが遊んでいた花火の残骸ではなく、火事が起こってしまった小屋の焼け跡をしっかりと調べた。もし犯人がいるとしたらこっちだからだ。
その焼け跡を見る限りほとんど完璧に焼けてしまっている。どこを探しても灰ばかりでお目当てのものは見つからない。
いくら探しても証拠になりそうなものなんて残ってなかった。
僕は絶望した。
最初っからわかってはいた僕のせいだってことを。だとしても調査なんてしてしまったがためにこの気持ちを二度目味わうのは耐えられる気がしなかった。
立っているのも辛くなり、倒れるように神社本堂の階段に座り込んだ。
ふと階段の隙間から本堂の下を覗き込むと、視界に一つのものが入り込んだ気がした。僕は慌てて立ち上がり、もう一度よく目を凝らして暗闇を見つめた。
そこにあったのは半分が焼けている赤い物体。そうそれはまさしくあのコンビニに売っていたあのマッチの箱だった。
百パーセントとは言い難いが、その箱が燃えていることを考えるとあの事件の時に使用されたものである可能性が高い。
とりあえずそのマッチ箱を袋にしまい、証拠として持って帰ることにした。
やはり十年前のあれは事故ではなくて、事件だ。
そう確信した僕はその証拠を手に船に向かおうとした。
「君はそんなとこで座り込んでなにをしているんだ。」
後ろから知らない男の人に声をかけられた。
「いえ、なんでもありません。大丈夫です。」
「本堂の下だの焼け跡だのを熱心にいじくりまわさないと思うんだがね。」
「え、どこからみてたんですか、あなたこそずっと人を観察してなにしてるんですか?」
「おれはこういうもんでね。」
そういうと男は来ていた服の内ポケットから手帳のようなものを取り出し、こちらに見せてきた。
そこには警視庁所属の警部である島村順と書かれていた。
「警察の方でしたか、どうしてこんなとこに来られているのかわかりませんけど、僕はここで失礼させていただきます。」
「待った待った。そこで何を拾ったのか教えてくれるかい?」
「いや別に、あなたには関係ないですよ。」
「実はね最近、東京では子供の殺害を放火で行なっている連続殺人事件が起こっていてね。だいぶ証拠が掴めていないんだ。」
「それとここがなにか関係でもあるんですか?」
「それで捜査を進めていくと十年ほど前にここでも一人の少女が火事で死亡した事故があったんだ。」
「あれはただの事故じゃなかったんですね。」
「お、ここであった事件を知ってるんだな。」
「知ってるもなにもその場にいましたからね、それでなんですか今更警察が大々的に動いてるんですか。」
「残念ながら大々的に動いてるのは東京で今起こってる連続殺人事件のみだ。この事件を怪しいと睨んでるのは俺一人だ。」
「そうですか。頑張ってください。では僕はまだやることが残ってるので。」
「待て待て、お互い協力と行かないか。その手に持ってる証拠を警察で調べた方がもっと犯人に近づけると思うんだがね。」
正直、誰とも協力するつもりなんてなかった、でも相手が警察となれば百人力ではある。だがしかし、本当に協力してくれるだろうか。相手は組織ぐるみで別の殺人事件を追っているうちの一人でしかない。最短で犯人を見つけるためには余計に人の協力を得るようなことは逆効果なんではないか。いろいろ考えた。いろいろ考えた結果、一人ではこれ以上進めない気もしてきた。
「協力していただけるのであれば、ぜひお願いしたいです。」
「じゃあ証拠を渡してもらえればなにか犯人の手がかりになるものが含まれていたらこちらから連絡させてもらう。」
証拠品である赤いマッチ箱を島村警部に預けた。
連絡先を交換した後、島村警部を残してそこを後にした。
帰りの船の中、店長から電話がかかってきた。
『そういえば、どこに旅行行ってるんだっけ?』
「地元の島に戻ってます。あと何日かしたら帰るので、そしたらバイト復帰します。」
『あ、地元ね、島ね、了解。』
そう言ってすぐに電話を切ってしまった。
焼け跡に関しての疑問はマッチ箱という証拠によって解決した。
あとは、島村警部に頼んでもらった鑑識の結果を待つだけだ。
後一つ、あの日複数の人に目撃されている不審な男。おそらくマッチ棒を使っていたことがあの証拠からわかるようにあの男はまず犯人で間違い無いだろう。
でも、十年前に三十五歳だった人は数え切れないほどいる。
その中から犯人であるその男を絞り込むことは今揃っている証拠だけでは不十分だ。
どうにかして候補の人物だけでもしぼりこまなきゃいけない。
何日か経って、島村警部から連絡があった。
『もしもし、あのマッチ箱、鑑識の結果でたよ。誰とまではわからないんだけどだいたい歳が、』
「三十五ですよね。」
『なんでわかるんだよ。鑑識でもだいぶ時間かかったんだぞ十年も前の物だと証拠品としてだいぶ劣化しててな。』
「十年前のあの時に不審な人物をみたという情報はありました。あの日の船の利用者名簿に載っていた男性は一人でその人物の年齢が三十五歳だったんです。
でもこれでその人が犯人である確率はだいぶあがりましたね。」
『そうだな。これ以上の情報はまだないのが現状だ。』
「ありがとうございます。」
これであの事件の日に目撃された不審な人物と、事件の犯人である人物が同一人物である可能性が高くなった。まだ、誰が犯人かまでがわかっていない。
島村警部がこの事件と今起こっている連続放火殺人事件が関係している可能性があると言っていた。
僕は今現在、東京で起こっている三件の連続放火事件について調べることにした。
一件目は新宿の△丁目〇〇公園で小学生が殺害された事件。
二・三件目も同じく新宿の□丁目のとある路地裏での事件。
最近起きている放火事件のすべてが新宿で起きていることがわかる。
この事件はだいぶ有名になっていて、簡単な情報はインターネットでも載っていた。
すべての事件がすべてマッチ棒による犯行であると書かれていた。
十年前のあの事件もマッチ棒によって放火されていた。島村警部が言うようにこの事件と十年前の事件とが関係しているのも分かる気がする。
翌日、すべての事件の現場にも立ち寄ってみた。
どれもが人気の少ない場所で行われていて、小学校の通学路沿いであることもわかった。事件現場の写真を撮り、次の現場に行くのを繰り返した。
だんだん僕には嫌な予感がしてきてしまった。
写真を撮り、現場を回るうちに少しづつ感じたのが、現場がバイト先に程よく近い距離の場所にあることである。
なにか閃いた僕は、すぐさま島村警部に連絡するためポケットの携帯電話を取り出そうとした。
その瞬間背後に人の気配を感じ取った。
もう遅かった。
気がつかないうちに体は地面に倒れ込んでいた。必死に声を出し助けを求めたつもりだったが、声すら出ていなかった。
そして僕は意識を失った。




