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君が生きていた夏  作者: 聖(ひじり)
1/3

再開

僕は、ふと今でもあの夏の日の夜を思い出す。

十年前のあの日ーーー


1.再会

「いらっしゃいませぇ。」


昼下がりのコンビニエンスストア、冷えすぎた冷房の下にいる。

いつからか、思いつきで家をでて都会で一人暮らしをはじめた。都会に憧れていたのもあったが、そんなにいいものでもない。

二十三歳にもなって、ろくに就職活動もしないでアルバイトを続けている自分にあれこれ言う人がいない分、都会はいいと思ってる。

今日も一人、また一人とお客さんをレジに誘導し、精算して、レシートを渡す。昨日と同じ毎日同じようなことの繰り返しだ。頭が痛い。


「すいません、快日新聞ひとつ。」


僕はいまだに新聞の種類とたばこの種類だけ覚えられない。よりにもよってこのコンビニは新聞がレジの内側にあるせいで、店員が覚えていないと会計がもたついてしまう。


「だからぁ、そこにおいてある新宿の殺人事件が表紙のやつだって、早くしろよ全く。」

「申し訳ありません。」


三十代ほどのサラリーマンの男性は大層機嫌が悪そうに店を出て行った。

こういうことが続くとさすがに落ち込んでしまう。


「また、新聞で怒られたのか?」


この人はうちのコンビニの店長の『山本さん』。


「すいません、またです。でもあんなにおこらなくてもいいじゃないですか。僕の島にはあんな人いなくてみんな穏やかでしたよ。」

「まあ、ここは都会だからな。そういう人もいるんだよ。俺もこのままだと疲れちゃうなぁ。なんて、店長が弱音吐いちゃダメだよな。」


どこか真剣な表情で、冗談を言っている。


「じゃあ僕の島でも行ったらどうですか?いいとこですよ。」

「いやぁ、いいよいいよ、俺三十五、六ぐらいの時にだけ一回船乗ったけど、最近の船乗ると、避難訓練とかやるからめんどくさくって乗りたくないよ。」

「たしかに、東京湾沖で起きた海難事故があってから、船上での避難訓練が普通になりましたよね。」

「まあとりあえず気にしないで、次のお客様からがんばってな。」

「はい。ありがとうございます店長。」


僕はレジに戻り、レシートの整理など適当に業務をこなし、バイトが終わるのを待っていた。


「関くん....?」


急に自分の名前を呼ばれて ここ最近で一番びっくりしたかもしれない、心臓が止まるかと思った。なんせ店長以外に名前を呼ばれたのが五年ぶりぐらいなんだから。


「え....?」


下に向けていた視線を本能が上に向けようとはさせない。

聞いたことのある声だった。


「関くんだよね ?」

「そら...?どうしてここに...。」


彼女は高山 空、中二の時同じクラスだった子で、当時は仲が良かったけどもう十年もあっていなかった。


「久しぶりだね...えっと、元気だった?」

「あ、ああ。」


言葉が出てこなかった。僕は十年前のあの事故以来、地元の友達や知り合いと距離をとってなるべく会いたくはなかったから、こころの準備がまだできていない。


「...あの会計を...。」

「あ、ごめん!えっと、はいちょうど。よかったらこんどお茶しない?

久しぶりだし、いろいろ話したいし。」


急にいわれて言葉がでない。

何を話す気なんだろう、十年もあっていないぼくと。

どういう顔で話せばいいんだろう、十年前故郷を逃げた僕は。

ここで断る都合のいい言い訳も思いつかなかった、な半ば強引に連絡先を交換されて後日会う約束をした。


ーーー約束の日

今日は日曜日。空からの連絡を受け、アルバイトが休みだった今日会うことになっている。待ち合わせは、駅前の小さな喫茶店「カヌレ」ですることにした。


「八時三十分か...」


待ち合わせ時間の三十分も早く着いてしまった。いろいろと緊張しているのかもしれない。

落ち着くために、コーヒーでも頼むか。

ここは駅から三分ほどのとこにある、老夫婦が経営している喫茶店。

店内はインテリアがたくさんあるオシャレで落ち着いた雰囲気で、都会らしさがあまりなく気に入っている。

カランカラン...


「お待たせー、おはよー。」


空は席に座り紅茶を頼んだ。


「あのさ、何の用かな...?」

「何の用ってわけではないけど、急に居なくなったちゃったから…」

「…ごめん、あの時は…」


中学一年生のとき、僕はとある島に住んでいた。

本島からもだいぶ離れていている島で、一日に一回ほど船がつくだけで、近くのコンビニといったら小さなもので、ほとんどなにもないような場所だった。

そんな中学一年生、夏休みを間近にひかえたある日、あの日は青空が広がり、雲一つない久しぶりの快晴で気分が良かったのを覚えている。

そんな日にあんなことが起こるなんて誰も想像できなかったと思う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

明日が夏休みの終わりだという日になってやっとみんなで夏休み最後の思い出に花火をすることになった。


「じゃあ、六時になったら蟷螂神社に集合なぁ。」

僕らはいつも四人組で遊んでいる。そのリーダーがこの宮園慧だ。


「だれが花火買ってくる?私が買ってこようか?」

この優しい子が柊美波。大人しくて、綺麗な子だ。


「あ、じゃあ俺買ってくるよ。コンビニ近いし。あとでお金渡してくれればいいよ。」

「お、気がきくねぇ。じゃあよろしくね。」


実は僕にはひとつ作戦がある。みんなでやる花火とは別にドッキリに使う用の花火を買いたいのだ。だから買い出し役をかってでた。

僕は集合の三十分ほど前にコンビニにより、大きめの花火を二袋買ってから蟷螂神社に向かった。

少し早めに着いてしまったが、もうみんな集まっていた。


「よし全員集合したね。じゃあ始めようか!」

そうやって始めの合図を出したのが高山空。僕とは小さい頃からよく遊んでいる一番仲のいい女の子だ。


最初は安定の線香花火から始めてたくさんある花火をどんどん使っていく。いろんな色で光る花火に全員目を輝かせている。

最後に一番大きな花火を慧が準備している間に僕は少し抜け出した。

そう、ドッキリのためだ。

僕は神社の横にある小さな小屋に買った袋から出した全ての花火をバケツの中に入れて設置した。この小屋にはみんなの荷物も置いてあって、荷物を取りに来る柊を驚かしてやろうと思っている。準備を終えた僕はまたみんなの元に何食わぬ顔で戻っていく。


「もう何しに行ってたのよ、とっくに準備終わったよ。」

「いやちょっとトイレに行ってただけだよ。」

「じゃあ火つけるよ!」


大きな花火に繋がる導火線に慧が火をつけた。みんなは花火が置いてある位置から離れて打ち上がるのを待っていた。

やがて花火本体に火が到達し、今まで見たことのないくらい綺麗な打ち上げ花火が目の前に広がる。

すると、


「どうせならカメラで撮りたいから取ってくるね。」


柊は小屋の中にある自分の荷物のところへと走っていく。

小屋の中で荷物の中を探す柊。

打ち上がったニ発目の花火のちいさな火花が小屋に飛んでいくのが僕には見えた。

その瞬間小屋がものすごい火の勢いで燃え始める。

僕の用意した花火に点火してしまった以外考えられない。あのちょっとの火花であんな燃え方するわけがない。

僕ら三人は急いで小屋に走って向かい柊を助けようとするが、燃え広がる高温の炎に阻まれて、結局助けることができなかった。

そう僕のせいで柊美波は死んでしまったのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そのあと消防車が駆けつけ、火は消し止められた。警察も来たが、中学生の火遊びが原因の不慮な事故と処理し、この事件は幕を閉じた。

それからというものみんなと顔を合わせることもできないまま中学を卒業すると同時に、東京に上京した。


「あの事故は誰も悪くないんだって、、落ち込まないでよ関くん。」

「いや僕があんな花火を準備していなかったらあんなことにはならなかったんだ。」

「一つ疑問があるんだよね。」

「疑問って?」

「いくら準備した花火が一袋分だったとしてもあんな小さな火花であんなに燃え広がるかなって」


たしかに、打ち上げ花火から飛んだ火花はごく微量なものであってあそこまでの炎に成長する気はあまりしない。


「でも、あそこには僕らしかいなかったんだからあの花火が原因としか考えられないじゃん。」

「もし、私たち以外に誰かがいたとしたら?」


空はおかしなことをいいはじめる。あそこに誰かがいたとしたら、それはなにかあるかもしれないけど、あんな島には知り合いしかほとんどいないし、第一あの時僕は誰かがいるようには思えなかった。


「私、関くんのせいではないと思うの、絶対誰かが、誰かがやったのよ。」

「そんなこといっても、証拠もないしなんせ10年経ってるんだよ?」

「証拠なら探せばいいじゃない。ね?」


僕には十年経った今、証拠が出てくるとは思えなかった。


「提案なんだけど今から慧のとこにいってみない?慧ねいま探偵やってるの、この東京で。」

「た、たんてい!?」


昔から大人っぽくて頭が良くてリーダー的存在ではあったけどそんな仕事をしているとは思ってもみなかった。

何十分か空に説得をされて、結局喫茶店をでて慧の探偵事務所に向かうことになった。

事務所は隣駅の駅前すぐそば、ものすごく綺麗なビルの二階にあった。

やっぱり昔の友達と会うのはあまり気が乗らなかった。

いまさら証拠なんか出てくる気もしないし、結局あれは僕のせいだったんだ。


「慧今いるー?」

「お、空じゃん。どうしたって、そいつもしかして関か?」

「あ、まあ、うん。」

「めちゃくちゃひさしぶりじゃんか。どうしたんだよ急に。」

「いや実はね十年前の事件のことを私たちで調査しちゃおうって話になったの。」

「やっぱやめようよ。どうせ今見つけたって時効でしょきっと。」


それを聞いた慧は大きな本を机に叩きつけた。


「実は仕事柄、法律についても結構勉強してるんだけどさ、もしあれが誰かが放った火だったとしたらその人は放火・殺人罪になる。

そうなったら時効は存在しない。関、どうする?」


そうだったのか、もし犯人がいるのなら今からでも間に合う、のか。

もしそうなら、僕は。


「あれが事故じゃなくて犯人がいるのだとしたら、僕はそいつを絶対に捕まえたい。と思ってる。」

一瞬熱くなってしまった自分に気づいてすぐ我にかえる。


「よし、そうなったら俺らで真犯人を捕まえてやりますか。柊のためにも。」

こうして、僕たちの、柊の仇取りが始まった。


ーー警視庁ーーー

『新宿△丁目〇〇公園で殺人事件発生。被害者は小学生1人です。現場に急行してください。』

一方、警視庁ではとある一つの無線が入った。

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