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1 ヤマト その5



「あれっ?」

なんだろう、もしや、万能アイテムとか、瞬間移動装置とか?期待してヤマトは自分の尻からモノを取りだした。

「はぁ!?」

それは、鉛筆であった。2Bの、受験のマークシートに使う予定だった、ヤマトが準備していた鉛筆。

「なんなんだよ!ほんとに、なんなんだよ!」

ヤマトは鉛筆を握りしめて、また泣いた。あまり声が出ない。喉も掠れる。嗚咽が荒野に響く。

「本当に、みんな、死んじゃったのかよぉぉ…」

思う存分泣いて、泣くのにも疲れたヤマトは、横たわって息をしているだけの時間が増えた。

水場で水分を補給し、植物の根を洗って食べてみたりした。しかしなにか口にするたびに、ヤマトは何度も苦しくなって吐いたり、腹を壊したり、体が痺れたり、状況はより悪い方へ進んでいるように感じた。次第に、移動しているよりも、動いていない時間の方が多くなった。夜を過ごすたびに、命が削られていくのを感じる。

ヤマトは、まるでゾンビのようだと自嘲しながら、小さな沢のせせらぎを越え、ふらふらと、倒れては、起き上り、しまいには、這いつくばりながら、どこかを目指した。窪地や、岩影や、木の根元で、何日の夜を過ごしただろう。自分が何者で、なにをしているのかも、考えられなくなった。

 その日の朝。森の間から、煙を立てる、茅葺で覆われた小屋のようなものが、ヤマトの視界に飛び込んできた。

「たすかった、たすかった、たすかった…」

ヤマトはぶつぶつ言いながら、人気のする方へ近づいて行った。やっと助かる。生き返る。そう思いながらヤマトは進む。しかし、ヤマトの体は、すでに、思う通りに動く状態ではなかった。意識は、進んでいる。しかし、体は、大地に伏せて、やせ細り、傷だらけの、生気のない、まるで屍だ。

「こんなところで死ぬわけない、俺が。」

薄れゆく意識の中で、ヤマトは自分の手元に、なにかの破片を見つけた。いわゆる、縄文土器の、欠片だ。

「ハッ!食えねえよ…」

ヤマトは鼻で笑うと、そのまま意識がなくなった。




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