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1 ヤマト その4



しばらく大地を歩き回ったヤマトだが、なにもドラマチックな出来事が起こらない。

「俺はどのくらい気を失っていたんだろう。天変地異があって、宇宙人みたいなのに、俺は選ばれて、山に捨てられたんだ。隔離して助けられた。よくある話だ。」

しかし、宇宙人も出てこないし、未来人も現れない。もちろんお姫様のようなものに出会うこともなかった。こうなってはとにかく、ヤマトは何か食べなくてはならない。食事を採らないと動くことができなくなってしまう。ヤマトの主演作は、ヤマトの餓死により終了してしまうであろう。

しかし、このまま一人ではどうにもならないという現実が、ヤマトに空腹と共に重くのしかかってくる。誰か助けてくれる人がいないと、もう少しでヤマト終了だ。

しかしそれからしばらく経っても、誰も現れない。人類が絶滅したのだから、誰も助けてくれる人などいないはずだ。自分でそう設定したくせに、ヤマトはそれを信じていない。当然だ。森にはシカの群れだけでなく、サルも、イノシシも、ウサギも、キツネもいた。災害を思わせる現場を目にすることはなかった。ヤマトは岩を背に座り込んで、流れる雲をのんびりとみている。

「それにしても、なーんにもなくて、動物がいっぱいだなあ。」

ヤマトは、空腹で鈍った思考の中、圧倒的な自然の息吹を体全身に感じていた。

「せめてなんか、食べ物があれば、楽しいのになあ。」

ヤマトは立ち上がった。歩いて、まずは水を探した。沢から浸み出すきれいな水を飲みたい。幸い飲み水は見つけることができ、その後も困ることはなかった。山から流れ出る沢の支流がいくつかあった。水を飲んで、周りに生えている、柔らかそうな葉っぱを食べてみた。苦い。ほかに、カニや、貝のようなものも見つかるが、ヤマトは火を起こせない。さすがに生食は危険なので手を出せない。そのまま山並みを西に見て、東に向かい、その先に見える森に向かう。村や、食べ物が見つかるかもしれない。

 本当は、なにか着るものが欲しかった。怪我をするし、何といっても寒い。無防備な状態が不安で仕方ない。とにかく人を探して、保護してもらいたい。この重大犯罪を予感させる、緊急性を帯びた非常事態であるはずだから、全裸の変態でもすぐに事情を察してくれるだろう。それにまだ自分は中学生だ。

しかし、ヤマトは全裸で、心もとなくもあるのだが、いいかげん寒さにも慣れて、ある種の解放感に身を浸してもいた。心身の状態は非常に不安定で危険なのだが、大自然の中で、なにものにも囚われず、縛られない、麻薬のような快感がヤマトを作りかえるようだった。

ふと、自然の中で研ぎ澄まされた体の感覚に身を委ねると、ヤマトは、自分の尻の間に、何か挟まっているのを感じた。



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