1 ヤマト その3
朝、ヤマトは寒くて目が覚めると、ちょうど沢の森の切れ目から、太陽の姿が見えた。とにかく寒いので、その太陽が見える東に向かって歩いて、体を動かして温めよう。おなかは減ったが、とにかく早く街に出なければならない。ヤマトは森を飛びぬけた。
「やった!」
森を抜けて視界が広がる。広い草原と、遠くに山々が見える。それだけだ。なにもない。
「マジで?!どこなんだよ、ここ!」
ヤマトは泣いた。とにかく、大声をあげて泣いた。
「おかあさーーーーーん!」
全裸で横たわり、泣きやんで疲れると、死んでしまうかと思った。しかし、激しい空腹を感じて、起き上がり、食べ物を探そうと思った。
「とにかく、腹が減った。なんでもいいからなんか食べる。」
周りは山と草原だ。ヤマトはいつだかの縄文BL小説を思い出したが、動物など獲れるはずもない。獲っても野生動物など、自分で食べられるとは到底思えない。もちろんBL小説も、ヤマトの趣味ではない。手が滑っただけだ。
「なにか、食べられる、木の実とか。」
しかし、今は受験シーズンまっさかりの2月だ。森の恵みなどなにも思い浮かばない。全裸でなにも道具がないヤマトは、己の無力さを思い知った。
「なんなのここ、無人島?北海道の原野?」
そんなわけはない。どうあがいても、狭い日本だ。どんな秘境に捨てられようとも、必ずどこか近くに、街がある。ヤマトは南に歩いて、人家を探した。なにもない、草原を、傷だらけの体で、全裸で進む。
ヤマトはふと、西の山々の、奥にみえる景色が気になった。
「あれって」
連なる山々の奥に、円錐形にそびえる、美しい山が見えるのだ。
「あれって、富士山だよな。」
ヤマトは茫然と、その山をみた。見まごうことなき、日本の名峰。最高峰の富士山だ。
「ウソだろ。」
ヤマトがみている富士山は、様子がおかしかった。
「いや、よくわからない、あんなだっけ?なんだあれ、雲だよな。」
ヤマトは富士山を見ている。大きな鳥が鳴いて、地上からやかましく数羽が飛び立つ。ごごーーーんと音がして、大地が揺れた。
「地震!」
言ってヤマトは辺りを見渡す。もちろんなにもない。なにも起こらない。かなり大きなインパクトを感じたが、けたたましい緊急警報も鳴らない。状況がわからない恐怖の中、地鳴りのようなものが続き、しばらくして富士山の山頂から、噴煙が噴き出した。雲ではなく、噴煙なのだ。煙をあげて、噴火している。
「富士山が噴火した!」
ヤマトは叫んだ。
「俺は、生き残ったんだ。噴火で、全部、なくなったんだ!」
俺は、生き残りだ。みんな死んだ。
ヤマトは少しわくわくしてきた。
「これから、ドラマが始まる。主役は、俺だ。」