第9話 叢の會議 ~クサムラのカイギ~
上陸して灯台へ向かっていると、バイクの音が聞こえる。マフラーを改造しているのか、アクセルを吹かして音を出しているみたいだ。
「”こんなところに暴走族?”」
悠夏は幻聴かと思い、警部に聞こえるように言った。
「”マフラー吹かしているライダーが、みんな暴走族というのは賛同できないですね”」
「”ごめんなさい。軽はずみで言った失言です。撤回します”」
バイクの姿はまだ確認できない。無灯なのだろうか。公道で走行しているのなら、捕まえなくては。
しかし、バイクの音が急に静かになった。
「”静かになりましたね”」
悠夏と警部が灯台方面に走っていると、2人の男女がこちら方面に走ってくる。かと思いきや、男女2人は悠夏と警部を見て、警察だと分かったようで、方向転換して逃げ出す。
「”警察だと分かって、逃げようとしているってことは、一味の仲間?”」
悠夏と警部が、2人を追う。
その近くの生い茂った草むらでは、バイクが転倒していた。乗っていた熊沢は、倒れている。
「草むらとの境にある石垣の段差に突っ込んだな……」
その声で熊沢が目覚めた。
「おはようございます……?」
熊沢が周りを見ると、知っている声の主が見当たらず、別の少年が2人いる。
「こっち」
声がする方を見ると、少年が両手を差し出しており、その上に飛蝗がいた。
「あれ? 元に戻ったんですか? ……ん? いや、元に戻ったのに、さらに戻ったんですか?」
と、事情を知る熊沢が飛蝗に言うけれど、言い直したのが回りくどい。
「あれは、俺の魔法じゃ無い。誰かの魔法でもとの姿に戻っているように見えただけだ。今、その話はいいから……」
シェイ改め、飛蝗は、こちらの知る情報を熊沢に話した。逆に、熊沢は志乃のことを飛蝗とケン、ヤイバに話した。
ところで、草むらに突入する時に音がしなかったのは、ヤイバとケンがバイクをキャッチし、バイクから身を投げ出された熊沢は、4本足の体勢になり、猫のように着地の衝撃を抑えた。音は抑えられたが、そのあと腕と足が少し滑ったようだ。
「火事場の馬鹿力って、凄いですよね……」
「確かに、さっきのは絶対に音がして見つかってただろうな」
奇跡的に難を逃れたのである。しかも、タイミング良く警察が到着した。
熊沢は倒れたバイクを見て、
「そのバイク、うるさいのとガス欠でもう使えないですね」
それぞれの話が終わると、ケンはすぐに話を切り替えて
「さて、ここからの作戦だけど……」
「灯台に潜入するか、灯台から救出するか」
ヤイバがその2択を提示した。潜入は、全員が灯台に籠城することになる。灯台からの救出は、灯台から逃げるが、その後どうするかも考えないといけない。
「おそらく、前者の方がいい。灯台の中に全員いるのなら、フロールの魔法でエスケープする方法がある。ただ、逃げ先だな……」
と、シェイが難しい顔をする。飛蝗だから、難しい顔がどんな顔か分からないけど。ケンは多分無理なのだろうと思いながら、
「自分達の国までは移動できないの?」
「距離がありすぎる……。それどころか、本州にさえも移動できないだろうな。何より、方角が仮に分かっても、距離が導き出せない。下手をすると、海のど真ん中に転送される」
太平洋なのかどこかは分からないが、海の上に転送されれば、溺れるだけである。ヤイバは、ここまで出ていない可能性の一つとして、
「ケイが魔法を使える可能性は?」
「螢が……?」
シェイが黙り込み、沈黙が流れる。少しして、シェイは
「考えない方が良い。不確定要素に頼ると、危ない……」
「ただ、僕らはケイによって、この島に来たんだよ」
ケンの言うとおり、ケンとヤイバはケイに会ってから、気付いたらこの島にいた。
「ケンとヤイバが会った、"ケイ"という人物と、志乃が言う"螢"は多分同一人物だと思うけど、魔法で長距離を移動するのは、できないんだ……。例え、難しい計算をして位置が定まったとしても、膨大な魔力が必要になるから……」
と、シェイは長距離移動を完全に否定した。それを聞いたヤイバは、疑問として
「じゃあ、シェイ達はどうやってここに来たんだ?」
「私が、いかにも怪しそうな"扉"をあけたら、こっちまで吹っ飛ばされたんですよ」
熊沢が頭の後ろを掻きながら、そう言った。
「扉って、閉まるの?」
ケンがそれを指摘すると、シェイと熊沢が「あっ」と叫んだ。
シェイは、飛ばされたときのことを思い出しながら、
「たぶん、開いてる可能性がある。その扉をくぐれば、もとの場所に戻れはするが……。ただ、この島の何処にあるか分からないな」
「ケン。もしかして、俺たちも扉に似たものをくぐった可能性があるんじゃないか?」
「でも、崩落して使えないはずじゃ……」
ケンとヤイバも移動手段として、候補に挙がっていたが、先日の崩落で全く考えていなかった。
ヤイバは、可能性として
「時空間の神殿にある"時空の狭間"。もしくは、もうひとつ……」
「"刹那の歯車"……。もしも、ケイが"刹那の歯車"を使ったとしたら、まだ消えるまで時間があるはず……」
ケンとヤイバが言う、"刹那の歯車"とは、もともと時空間の神殿でしか出現しない"時空の狭間"だが、場所と日時を問わずして、作り出せるアイテムである。"時空の狭間"は、一度出現すると、徐々にその円の大きさを狭めていく。最終的には、消滅するのだが、同じ場所にとどまり続ける。そして、その"時空の狭間"をくぐれば、空間や時間を超越し、2つの場所を往来できる。
「ただ、確証はないが……、賭けてみる価値はありそうじゃないか」
と、ヤイバは本気で言った。ケンもそれに頷く。
シェイは2人の様子を見て、
「どうやら、お互いに帰る方法がわかったところで、まずは灯台に潜入だな」
To be continued…
本編が間に合っているか、これを予約投稿している時点では分からないのですが、
ヤイバはケンから時空間の神殿での出来事を一通り聞いています。
そのため、"刹那の歯車"についても知っています。