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第7話 亊件の發端 ~ジケンのホッタン~

 灯台の光で、周辺の海上が明るくなった。龍淵島に近づく水上警察の船から、不審船が確認できた。鴨志田(かもしだ)河邉(かわなべ)記井(きい)、そして畔柳(くろやなぎ)が乗船している船である。

 警察であることが分かると、彼らは抵抗せずに捕まった。武器等は所持していなかった。これについて思わず、警部が

「抵抗しないんですね。てっきり、激しい船上戦になるかと……」

 と言ったが、畔柳は

「これは何罪に当たるんですか? 我々は、何もやってないですよ」

 と、無実を主張した。確かに、海上で釣りをしていただけなら、罪では無い。悠夏は冷静に、

「その船、被害届が出てるんですよ。盗まれたらしくって。だから、窃盗の疑いで緊急逮捕です。しらばっくれても、無駄ですので」

 令状は出ていない。だから、緊急逮捕である。別に任意同行でも構わないが、盗まれた船に乗船しているのだから、高確率で犯人だろう。

「さて、細かい話は私は聞きませんので、署で話してくださいね」

 悠夏は、説明するどころか、弁明の場も与えないかった。普通ならば、ここで推理と解決パートなのだろうが、そんなことは知ったこっちゃない。


   *


 糟谷頭領はうなだれて、その場に倒れた。夫人は、ゆっくりと近づき、

「もう終わりにしましょう。償う時間が途中にあったとしても、そのときはいずれ来るでしょう」

 そんな意味深なことを言った。何かを隠しているのだろうか。いっそのこと、聞いてしまうのがいいのだろうか。しかし、情が移るようなことは聞きたくない。シェイとヤイバがそんなことを考えていると、ケンが

「何があったんですか?」

 と聞いた。過去形だった。純粋に感じたことを聞くことは、ケンの良いところであり、同時に脆いところでもある。

「数年前まで、人に干渉せずに住んでいたのですが、聖域へと進入してきた人々に、私たちは何もできませんでした。気付けば、そこは人々が住む大きな街になっていました。聖域は、跡形も無く消え去ったのでした」

 夫人は怒りは見せず、どちらかというと悲しみが出ていた。

「……自然が無くなったってことか」

 シェイがそう呟いた。夫人の言う"聖域"とは、おそらく森だとか山、川といった自然であろう。その土地が、人の手によって街へと開発されたのだろう。しかし、数年でそんなに変わるものだろうか。

「人では無い私たちは、人の環境に馴染めず、暮らすことはできませんでした。そして、一昨日……」


   *


 本部では、特課が捕まえた人物の名前から、一味の身元が割れた。その情報が、悠夏と警部へ伝わる。

 今回の事件の容疑者は、全員が同じ離島の出身だった。その離島とは、龍淵島であった。龍淵島には、もともと彼らが住んでいたのだ。しかし、龍淵島近海で貴重な資源があることが分かり、龍淵島に人が押し寄せた。居場所が無くなった彼らは、人の姿で本土への船に乗り、新しい聖地へと移動した。乗船代は、単純労働で稼いだようだ。しかし、その聖地も街の開発により無くなった。結局、人として生活を強いられた。

 調書によると、一昨日の夜に事件は起こった。糟谷容疑者を筆頭する13人の一味が、開発大臣の補佐を務める被害者に対して、殴打とある物を強奪した。被害者は全治2ヶ月の重傷であり、開発大臣の業務に少なからず支障を来している。

 何故、被害者に対して暴行と強奪を行ったのか。その動機がまだはっきりとしていない。事件現場は、全国チェーンのとある居酒屋で、被害者はかなり酔っていたことが分かった。隣同士の個室だったため、目撃証言は期待できなかった。店員は、他の接客や配膳に忙しく、騒動になってから気付いたらしい。防犯カメラはダミーであり、証言を得なければ判断できない状況である。

 被害者の証言は、一方的に集団で暴行されたと話しているが、事件の発端を話さないことから、その証言はあまり参考にならないと、本部では考えているようだ。

 おそらく、被害者の言動が動機だと思われる。こればかりは容疑者から、聞くしか無いだろう。しかし、

「頑なに言いませんね。身元は、所持品から判明しましたが、証言は得られていません。ただ、反抗的な態度では無いと思います。ただ単に、仲間意識と言いますか……」

 悠夏は、参事官に電話でそう報告していた。参事官からは、数隻追加で向かわせており、さらにヘリも何機か向かわせているとのことで、悠夏と警部には上陸の命令が出た。残りを捕らえろとのことだ。もし相手が拳銃や武器を所持している場合、警部には文字通り盾になってもらう。多分、弾ぐらいなら防いでくれるはず。

 灯台の明かりにより、周囲は暗闇からある程度見えるようになった。まず悠夏と警部が向かうのは

「島に近づいる途中で、灯台の明かりがついたってことは、灯台近辺に誰かいる可能性がある。闇雲に探すよりは、灯台近辺にいる人物に職務質問かければ、何か分かるはず。警部、灯台に向かいましょう」

「僕もそう思っていたんですけど、一言ぐらい僕の推理を聞いてくださいよ」


   *


「今なら、動いて問題なさそうですね」

 熊沢は注意深く周囲を見渡す。今度は、日本語で

「”螢さんを探しに行きましょう”」

 フロールと決めていた。志乃を助けたという螢を探しにいく。

「きっと見つかるよ」

 フロールは笑顔で言った。言葉が通じなくても、志乃はフロールの言葉が分かった。

「”ありがとう”」

 熊沢はフロールに翻訳しようとしたが、フロールも志乃の言葉が分かったような表情だった。熊沢は、敢えて翻訳せずに

「危険ですが、漁港方面に向かいますよ。人がいるなら、漁港のはずです」

「それに、私たちを灯台の光で助けてくれたのは、たぶん螢さんだよ」

 フロールの推測は当たっている。しかし、敵の本拠に近づくリスクがある。

「さて、灯台までのルートについてですが……」 

「くまたん、もしかしたらアレ……」

 納屋から出てすぐ、フロールがある物を指さした。熊沢はそれを見て、

「かなりの年季物ですが、動くんですかね?」

「動いていたころに戻せば、動くよね?」

 と、フロールは言うが、熊沢はいまいち理解できない。

「お家で、賞味期限が切れたみたらし団子の時間を巻き戻したことがあって」

「なるほど。魔法で、時間を戻すんですね」

「でも、長い時間を戻せるか分からないけど……」

 フロールと熊沢の会話に、終始志乃は首を傾げていた。熊沢は、そんな志乃に

「”マジックショーが始まりますよ”」


To be continued…

7話まで話が進みましたが、なんだか終わりそうな雰囲気がしないです。

もともとは、もっと短い話のはずでしたが、まだまだ続きそうです。

引き続き、よろしくお願いします。

ちなみに、7話の予定していたタイトルは「亊件の幕引き」でした。発端に変更。

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