表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

第5話 獸の眼光 ~ケモノのガンコウ~

 漁師を装うこの集団の目的は分からない。でも、断片的に分かることを整理すると……

 龍淵島の半分が崩れ、金銀財宝が海に沈んだ。それを探すべく、見つかりにくい夜に島の近海で捜索している。そして、少女に何かを見られた。

 糟谷夫妻は笑った。不気味に笑う。

「これでは勝てぬか……。手加減はなしだ。こちらも本気で行こう」

 そう言うと、糟谷頭領は声を上げ上半身の服を破き、獣の姿を曝け出す。狗吠(くはい)により威嚇するようだ。

 シェイは魔力の残量を確認しながら

「どうして、大柄な敵が本気出す時って、服を破きたがるんだろうな」

「さぁな。まるで獅子だな……」

 と、ヤイバは剱を構え直す。ケンは一呼吸の後、

「負けるわけにはいかない。手を抜けば、それ相応の被害が出る」

 ケンとヤイバは、黎明劔隊(れいめいつるぎたい)逢魔劔隊(おうまつるぎたい)の発足直後の騒動に巻き込まれ、多くの被害を出した。もう負けられない。過去、勝敗だけで見ると、ケン達が快勝したことは無い。

「お前らは、知りすぎる前に、葬り去ってやる」

 糟谷頭領こと獅子のような人物は、鋭い牙を見せ、眼光で3人を睨む。どうやら判断は速いようだ。普通なら、知りすぎた時に消されるのだろうが、今回は知りすぎる前に消されそうだ。

「ケン、ある程度の殺傷は覚悟しろ」

「分かってる」

 ヤイバに言われ、ケンは覚悟しているようだが、ケン自身ではまだ迷っているようだった。

「魔力は回復するまで時間がかかるから、もしものとき以外は期待しないでくれ……」

 シェイは自分が無力であることを痛感していたが、もしものときは、魔力が空になっても魔法で援護する覚悟だ。

 頭領は鋭く伸びた爪でヤイバ達を襲う。大きな肉体ではあるが、その動きは素早い。左の爪をヤイバが剱で防御するも、頭領の力が強い。子どもと大人の力の差が現れている。

 振りかぶった右の爪を、ケンが剱で食い止める。両手を止めても、口の牙が襲う。ヤイバは、もう一本剱を鞘から素早く出して、牙の攻撃を防ぐ。元々3刀流のヤイバだから、2刀流はいい加減ではない。

「まだまだ」

 頭領は、今の体勢から一度ひいて、すぐに体を捻りながら、右の爪を高速で振る。ヤイバが2本の剱をクロスさせて防ぐが、弾かれる。すぐに次が来る。ヤイバは弾かれた体勢のまま後退して、ケンが次の攻撃を処理する。

 攻防は一度でも気を抜けば、大きなダメージとなる。一方、シェイは、戦いに参加しない夫人の方に注意を払う。いつ割り込むか分からない。まだ何も仕掛けてこないのが謎だった。現状、1対2である。夫人が攻撃に参加すれば、ケン達は圧倒的に不利である。2人というアドバンテージがあって、やっと同等に戦えているのだから。

 それに、下の階から応援が来ない。仲間が多いあちらの方が優位である。


   *


 納屋の外が騒がしい。熊沢は、隙間から外を見る。フロールが目を覚ましたらしく、瞼をこすりながら

「どうしたの?くまたん?」

 熊沢は、フロールの方を向いて、口元に人差し指を立てた。フロールは声を抑えて

「外に誰かいるの?」

「えぇ。おそらく、彼女を探しているのかと」

 熊沢の想像通り、外の人物達は志乃を探していた。建物をひとつずつ、中まで調べているようだ。このままでは、納屋にまで捜索の手が伸びるのも時間の問題だ。

「このままだと、非常に危険です。隠れるか逃げないといけないですね」

「でも、こんな真っ暗だと逃げ切れるの?」

 フロールは心配そうに言った。熊沢は、いつもの調子で嘘でも「大丈夫ですよ」と答えるべきだろうが、言えなかった。 相手がどんな武器を持っているか分からない。

 外には少なくとも2人はいるみたいだ。シェイが漁港で畔柳(くろやなぎ)が話すのを聞いていた。

『”頭領からの指示だ。眞勢(ませ)柴山(しばやま)は、あの少女を探せ。夜は動かないだろうし、どうせ一人だ。鴨志田(かもしだ)河邉(かわなべ)記井(きい)は、俺とともに海上捜索に行く”』

 つまり、眞勢と柴山であろう。眞勢は、長髪の女性で年は四十ぐらいだろうか。柴山は細身の男で、こちらも四十ぐらいだろうか。会話が辛うじて聞こえるが、姿が見えないというのに、頑なに両者の名前を言わない。

「”一体、何処に行ったんだ……”」

「”そう遠くまでは、逃げられないでしょ。協力者でもいない限りは”」

 と、眞勢は言うが、柴山は協力者がいる可能性を考えているようで、

「”もし、その協力者がいたとしたら? 現に、無人島のはずなのに、なんで人がいるんだ?”」

「”ただ、本部が動いたとしても……、この島にたどり着くまで、まだ時間はあるはずよ”」

 眞勢の言う"本部"とは、何のことであろうか。少なくとも、眞勢達にとって、味方ではないようだ。

 柴山は苛立っているようで、転がっていたバケツを蹴り上げたり、ドアを蹴り破るなど乱暴に探す。

「”どこにも……、いないじゃないか!”」

「”そんなに暴れたら、敵対してしまうわ。あわよくば、味方にできるかもしれないのよ”」

 眞勢の考えでは、志乃の状況次第で、この島に誰もいないことを告げ、頼れるの者が私たちしかいないことから、無条件に仲間にすることを目論んでいるようだ。頼れる者がいないと知ると、1人では何もできない。判断は1つしか無い状況をつくる。

 だが、その話は熊沢に筒抜けである。ここまで目論見がはっきりしていると、志乃が眠っているのが唯一の救いであろう。彼女が聞いたらどう思うだろうか。

「お嬢ちゃん、私たちの目標を決めましょう」

「目標? いっぱいあるけど……」

 フロールは右手の親指から順番に数を数える。

「ひとつ目は、飛蝗くんと合流すること。ふたつ目は、彼女を安全な場所に逃がすこと。みっつ目は、私たちの帰還です。他は?」

「あの人達が悪いことをしてるのなら、止めたい」

「お嬢ちゃん、なかなか難しいことを言いますね……」

 熊沢は漁師を偽る彼らの正体は全くもって想像できていない。それに、星空 螢という人物も見かけていない。彼女を救うなら、コンタクトがあってもおかしくはない。

「相手の全貌が分かりませんし、相手が極悪かも分からないですよ」

「でも、志乃ちゃんを探しているみたいだし、船に閉じ込められていたんでしょ?」

 フロールは純粋に、志乃を本当の意味で救いたいと思っているのだろう。熊沢には、それがダイレクトに伝わる。

 ただ、謎が多い。魔法を自由に出せないフロールと、ジョークぐらいしか言えない熊沢。2人だけでは、志乃を守りきれるか怪しい。全滅の場合もある。シェイ達の行動を待つべきだろうか。ただ、シェイが彼らを怪しんでいればの話だが……。

 熊沢が考え込んでいると、フロールは声を抑えながら

「くまたん、外見て」

「何かありました?」

 熊沢が外を再び覗くと

「”ここだけ誰かが歩いた後があるな”」

 冷静になった柴山が、真新しい痕跡に気付いた。この近辺はアスファルトではなく、ある程度硬い土ではあるが、植物が折れているなど、よく見れば最近誰かがいた痕跡がある。隠れているとはいえ、そこまで考えていなかった。浅はかだった。ちゃんと、周辺にまで気を配るべきだった。

「まずい展開になってきました。もしかすると、居場所がバレるかもしれません」

 熊沢は周りを見渡す。最悪、壊れた農具を使えば時間は稼げるだろうか。眞勢達の足音が、納屋のドアの前まで徐々に近づいてくる……


To be continued…

早いもので、2018年も終わりが近づいています。

『龍淵島の財宝』は年を越して、もう少し続きますので、よろしくお願いします。

よいお年を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ