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第4話 假面の罅 ~カメンのヒビ~

 漁師に会う前のことだ。シェイは、自分の姿が戻っていることに当然ながら疑問を持った。シェイは知らないが、呪詛石(じゅそせき)という呪縛から解き放たれるのは、まだ先の話である。つまり、シェイに誰かが魔法をかけたのだろう。例えば、変化の魔法。ただ、余程の魔力が無ければ長時間持たないだろうし、何よりシェイが魔法が使えるようになっている。あの姿の時は、一切魔法が使えなかった。ただ、使える魔力はかなり少ない。仮説ではあるが、残りの魔力は、変化の魔法に吸い取られていることが考えられる。7割の魔力を変化の魔法消費に勝手に使われ、残りの3割しか自由に使えない。


   *


 建物はコンクリート製。もし木造なら歩けば床が軋んで、すぐバレただろう。もともと何に使用されていたのかは分からないが、各階には、柱が均等な間隔でいくつもある、だだっ広い空間があるだけで、あとは階段しか無い。想像するに、事務所などが入るのか、将又(はたまた)倉庫のような使い方をするのだろうか。5階建てで、窓ガラスは一部罅が入っていたり、破損していたりする。息を殺して、足音を立てぬように階段を上る。

 階段は1つ。鉢合わせのおそれが十分あった。それに2階で、何人かが睡眠を取っていた。

 3階への階段の途中でシェイが足を止める。ヤイバとケンは壁際に寄る。上から誰かが下りてくる。

「”糟谷頭領も、今回ばかりは焦ってるみたいだな”」

「”そりゃ、俺たちも焦るでしょ。金銀財宝が全て海の底に沈んだんだから。そして、()()を少女に見られた”」

 男性2人が喋りながら下りてきた。会話は、シェイ達の横を通り過ぎても続いて、

「”しかし、龍淵島が崩れるとはな。予想外だったな”」

「”崩落と言うより、島半分が沈んだからな”」

 姿が見えなくなると、ケンは静かに呼吸して小声で

「本当に見えなくなったんだね」

「正確には少し違うんだが、音や気配に感づかれるとアウトだ。隠密行動の魔法は、どれも完璧じゃない」

 シェイは少し息が乱れている。魔法で体力を消費しているからだ。3人に隠密行動の魔法をかけるのはかなりギリギリなのかもしれない。

 4階に上がると、海図が広げられた会議室のようだった。

「誰もいないな……」

 ヤイバが単独で5階へ行こうとすると、シェイは

「俺からあまり離れると魔法の効力を失う」

「なるほど」

 ヤイバは、海図の方へ歩く。ケンとシェイは既に海図の近くへ。

「何て書いてある?」

「さぁ……」

 シェイは、首を傾げた。海図は日本語で書かれていない。かといって、英語や中国語とかでもない。

「”お客さんかな? 招いた記憶は無いのだが”」

 上の階から、屈強な男と眼鏡をかけた女性が下りてくる。言葉が分からないケンとヤイバもなんとなく勘づいた。

「糟谷頭領かな」

「おそらくそうだろうな。横にいるのは秘書か?」

 ケンの言うとおり、屈強な男は糟谷頭領で、ヤイバの予想は少し外れ、眼鏡をかけた女性は秘書ではなく、頭領の妻である。

「”姿が見えなくとも、我々には嗅覚がある”」

「こいつら、人じゃないかもな……」

 シェイは、臨戦体勢に入るために魔法を解くタイミングを考える。重要な情報をまず、ケン達に伝える。

「嗅覚が発達しているらしい。位置がバレている」

「魔法を解いて。解かずに奇襲をかければ、問答無用で戦闘になるから、まずは情報を聞かないと」

 ケンの案にヤイバは頷いた。戦闘は極力避けたい。

「分かった」

 シェイは魔法を解除する。

「”なかなか面白い仕掛けだな。さて、君たちは何をしに来たのかな?”」

 糟谷頭領は、ドスの利いた声でそう言った。シェイは次の魔法をケンとヤイバにかける。

「もう一度聞こう、何をしに来た?」

 糟谷頭領の言葉が、ケンとヤイバも直接理解できる。シェイは、翻訳の魔法をかけたのである。しかし、翻訳の魔法といっても、魔法をかける本人が知っている言葉同士の変換が前提である。この場合は、シェイがどちらの言葉も理解できるからこそ、使える魔法である。

「僕らは、単純に遭難したこの島のことを調べるために、こちらに来ました」

「ほぉ、本当は日本語が話せるのか」

 ケンの言葉が糟谷頭領にも通じる。

「ただ、あなた方が不自然なんで、つい疑って……」

 ケンは正直に言う。嘘をつく必要は無い。

「不自然とな?」

 糟谷頭領の反応から察するに、回答次第では戦闘にはならないかもしれない。今度は、ヤイバが

「まず、この島に住んでいるにしては、民家が荒れていた。あれは何十年も放置されていないと、あそこまで酷くはならないだろ。次に、漁師なのに、漁船が見当たらないことだ。道具も見当たらないしな」

「なるほど。よく見ているな。子どもとはいえ、それほどの観察眼があるのか。次からは油断せずに注意しないといけないな」

 糟谷頭領のいう"次"とは……。


   *


 納屋のすきま風が冷たく、フロールと志乃は毛布を深く被る。しかし、志乃は目が冴えているようで、眠れないようだ。

「”眠れないですか?”」

 熊沢は、やさしく声をかけた。

「”あなたこそ、寝ないの?”」

「”まだ眠くはありませんので”」

「”熊って、どのくらい睡眠が必要なの? 冬眠するから眠らなくてもいいの?”」

「”私、見た目は熊ですけど、本当の熊ではありませんので……。動物の熊は、普段何時間ぐらい寝るんですかね?”」

 と、熊沢は笑った。確かに、熊は冬眠するけど、普段は何時間睡眠を取るのだろうか。


   *


 糟谷頭領の持つ包丁、身幅が短く刃が長い"ふぐ引き包丁"と、ケンの剱が交錯する。さらに、糟谷夫人の出刃包丁とヤイバの剱が交錯する。

 剱と包丁では、長さが違うし、力の入り具合も違う。ヤイバは交錯したまま力を入れて、糟谷夫人の握力を奪うと、そのまま振り切って、出刃包丁をはじき飛ばす。

 糟谷頭領が振り回すふぐ引き包丁を、ケンは剱で何度も弾き、包丁に罅を入れると、最後に大きく振ってふぐ引き包丁を折る。

包丁と剣では、勝負にならない。ケンとヤイバは追撃せずに、構えるだけ。人を直接攻撃して殺傷することは、彼らの国では禁じられているからだ。


To be continued…

魔法の制約は、確か『紅頭巾Ⅲ』で色々と説明していた気がするので、魔法に制約がある設定はこっちが先行というかたちになりました。意外と自由には使えない設定です。


追記。1つ誤変換があったので修正しました。

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