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第2話 互いの噓 ~タガいのウソ~

 小屋というか、トタン屋根に木造の納屋が正しいか。使える農具は置かれていない。長椅子があり、蜘蛛の巣がいくつもある。長い間、使われていないようだ。

 少女は眠っているが、ときどき夢に魘されるような状態になる。そのたびに、フロールは声をかける。まだ魔法を十分に扱えないフロールは、それが精一杯だった。

 熊沢さんは、食べ物や水を探しに外に出ている。納屋から南(方角は、熊沢さん曰く)へ向かうと、コンクリート製の波消しブロックや堤防があった。明らかに人工物であり、熊沢たちが住んでいる国では無いことが分かった。

(ここ、どこなんでしょう……? 海の水はそのまま飲めないですし、集落がどこかに……)

 しばらく探索した結果、人の気配は無く、納屋の周辺にある民家は全て空き家であった。しかも、それ相当の年月が過ぎている。ここだけ見ると、無人島だと思う。

 熊沢さんは、今度は西へと歩く。堤防が途切れ、また森があり、その森を抜けると漁港である。しかし、熊沢さんは違和感があった。でもそれは、漁港の建物から聞こえてくる話し声で一旦消えた。

(だれかいるみたいですね。しかも大勢。さて、一芝居しないと……)

 声のする方に、歩いて行く。すると、

「”熊だ!”」

 漁師のひとりが叫ぶ。楽しそうに魚料理を食べていたのが、事態急変。大人の男が8人ほどで女が2人、少年が3人。

「”こんなところまで下りてきたのか”」

「”だれか、ナイフか包丁を!”」

 熊沢を見てパニック状態である。

「熊だけど追い払うだけだよ」

「倒したら、肉が増えるんだけどな」

 大人達と違い、少年達の喋る言葉が違う。それに、2人の少年は好戦的だが、

 熊沢が椅子に座ったままの少年を見ると、こっちを見て口に手を近づけて、手を口のようにパクパクさせる。この少年は事情を知っている。それで理解した。少年は、熊沢さんに喋れと言っているのだ。

「”ちょっと、待ってください”」

「”熊が喋った!?”」

 漁師たちはパニックである。少年2人は、顔を合わせて臨戦態勢を解いた。言葉は分からないが、喋ったというのは理解した。熊沢さんは日本語で喋る。

「”熊ですけど、熊じゃ無いんで、あの……3人分もらえます?”」

 その発言で、漁師たちは笑った。人だと認識したようだ。

 さて、少年2人はケンとヤイバ。熊沢さんにサインを送ったのはシェイである。しかし、熊沢さんはシェイの姿を見るのは初めてである。


   *


 納屋に戻ると、フロールが「遅いよ」って怒っていた。少女が目を覚ましたそうだ。

「”ごめんなさい。私、やっぱりまだ朦朧としてるみたい”」

 頭を抑えて首を振る少女にフロールは「どうしたの?」と聞く。

「”だって、今帰ってきた人が、熊に見えるから……”」

 おそらく、2人の会話は偶然成立した。どっちも通じていないのである。話す言語が違う。

「まぁ、熊ですからね……」

「くまたん、あの子の言葉が分かるの?」

「えぇ、外国の言葉ですね。偶然にも、私が覚えている言語なので、翻訳はできますよ」

「くまたん、すごい」

 フロールはそう言い、次に少女にかける言葉を頭の中で一生懸命、選んでいるようだ。

「言葉で伝えなくても、お嬢ちゃんの笑顔やジェスチャーで伝わりますよ。私があの子の言葉を翻訳します」

「そうだね、ありがとう」

 純粋で元気いっぱいなフロール。それを見て、元気にならない子はいないだろう。

「”彼女は、フロール。君が目を覚ますまで、そばにいたんですよ。私は、外見は熊の熊沢と言います。日本語はできるので、喋ってますが、伝わってますか?”」

 少女はゆっくりと頷いた。

「”よかったです。さて、ご飯にしましょうか”」

 熊沢さんは、続けてフロールに「ご飯を食べましょう」と言った。


   *


 漁港。ケンとヤイバはさっきの訪問者について話していた。

「さっきの熊は何者なんだろう?」

「喋っていたのは、終始ここの言語っぽかったけど」

 ヤイバの言うとおり、熊沢さんは日本語しか喋らなかった。

「シェイは、あの人が何か喋ってたの分かるの?」

「……ああいう大人にはなるなよ」

 シェイはそう言って、お茶を飲む素振りをした。ケン達の会話ではなく、建物の裏で話す言葉に耳を傾ける。 

「”まだ見つからないのか?”」

「”あの子の前では、このことは言うなよ。日本語が通じるからな”」

 "あの子"とは、シェイのことだろう。不穏な空気である。

「”でも、この島に人がいるとはな……”」

(島民じゃ無いのか……?)

 シェイがそっちに集中していると、ヤイバが小声で

「怪しいよな?」

 その鋭い言葉に、シェイは自分の素振りで伝わったのかと思い

「周りに悟られないようにしてるつもりだけど……」

「シェイのことじゃないよ。漁師達……、漁師かどうかも怪しいけどね」と、ケン。さらに続けて、

「ここにたどり着く前に、いくつも民家があったけど、どれも生活感が無かったし、風化しててとても住めるような環境じゃなさそうだと思ったんだ」

「それに、漁師ならあるはずの漁船が見当たらない」

 ヤイバの言うとおり、この漁港には漁船が無い。熊沢さんが持った違和感も、漁船が無いことだった。ヤイバは、トーンを落とし

「つまり、導き出される答えは……、奴らはここの島民じゃない」

「でも、漁師達が一時滞在してる可能性もある」

 シェイの言うとおり、沖合まで出て、途中で停泊中もしくは、遭難の可能性がある。しかし、ヤイバは

「遭難なら、他に人を見つければ助けを乞うだろうし」

「一時滞在中なら、島民だと嘘つく必要も無いだろうし」

 ケンの言うとおり、シェイがこう言っていた。『地元の組合の人が、もうすぐ魚料理を振る舞うそうなんだ。それを食べないかって』。一時滞在なら、地元とは言わない。

 3人のそばに一人の男が近づく。どうやら、小声で話しているのを不審に思ったようで

「”何を話しているのかな?そんな深刻な顔をして……”」

「”実は、彼らも遭難者らしくて……”」

 シェイが"()()()"、というのは、自分も含めてそうだからだ。遭難者であるのは嘘では無い。事実、この龍淵島に迷い込んだのだ。

「”だから、今夜からどうするか……”」

 シェイの言った内容をなんとなく感じた2人も、深刻な顔をする。

「”そうか……。組合長に相談するぞ”」

「”すみません……、お手を煩わせてしまい”」

 シェイは立ち去るのを見届けた後、

「俺らは遭難者ってことで、相談してみた。嘘じゃないし、奴らが動くなら夜だろうな」

 シェイはさらに気になったこととして

「だけど……、頑なに、俺たちの前では名乗らないな。奴らは」


To be continued…

「路地裏の圏外」とは、各作品の本編(表)に関わらない話(裏・圏外)ということで、昔から使っているタイトルです。たまに、ガッツリと本編に関わったりするかもしないけれど、多分気のせい。

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