第18話 燈臺の輝き ~トウダイのカガヤき~
お別れのときが来た。しかし、悠長にお別れを言う状況では無い。でも、
「みんな、ありがとう」
志乃の目が潤んでいた。今にも雫となって、溢れ出しそうだ。
「無理矢理巻き込んですまなかった。でも、おかげで助かった。ありがとう」
螢の翻訳魔法もあと少しのようだ。しかし、"時空の狭間"をくぐるまで、魔法は継続する。
「こんなに巻き込んだんだ。最後まで投げ出すんじゃ無いぞ」
と、ヤイバ。ケンも二人に、
「これから先も大変だと思うけど、サポートしてくれる人はきっといるはずだから、諦めないでね」
熊沢は、ハンカチを目に当てる小芝居して
「短い時間でしたが、お役に立てて良かったです。これからのおふたりの祈願を願って」
「熊沢、それは飲み屋の締めみたいだな。祈願を願うって、どんだけ願うんだよ」
シェイのツッコミに、螢と志乃も笑った。フロールは2人のもとへ駆け寄り
「志乃と螢もありがとう。2人の無事と今後の旅路の安全を願って、魔法を使います!」
フロールは魔法の杖を元気よく、大きく振って、空を指し示して魔法を使う。
灯台が輝きを放つ。さらに、灯台から空へと何色もの光が延びる。
「綺麗……」
志乃は、海面に映った灯台の輝きを見て、感動した。フロールは、
「本当は、花火の魔法を使いたかったんだけど、まだ覚えてなかったから。巨大イルミネーション」
そう言った。十分な贈り物だ。
「輝きを失う前に、志乃、行くぞ」
螢と志乃が"時空の狭間"をくぐる。くぐる直前に、志乃が「また元気で会おうね」と言った気がした。全てが落ち着いた後に、会えればいいな。
「さて、狭間を閉じるまで持久戦だぞ」
ヤイバが剱を構え直すが、かなりの体力を消耗している。少し体がふらついているみたいだ。ケンは、
「完全燃焼する前に、決着を付けよう」
空間の裂け目から、再び仮面をつけた長身の男達が出てくる。パターンはもう知っている。しかし、手加減はしない。全力で戦う。
フロールも船からの攻撃が来るたびに、防壁を作る。幸いなことに、螢が発動したバリアはまだ残っている。どうやら、設置型の魔法で、設置する時に魔力を消費して、あとは魔力が尽きるまで存在するものらしい。
熊沢は、おそらく東だと思われる方を窓越しに見て、気付いた。
「もうすぐ、太陽が昇るみたいです」
朝日が、徐々に暗かった世界を照らし始める。そこから、シェイはひとつの可能性として、あることに気付く。
「もしかしてだけど、あの船の活動限界が近づいてるかもな」
「どういうことですか?」
食いついたのは、熊沢である。というか、おしゃべりしている余裕があるのは、この1匹と1頭だけである。あとの3人は、敵との戦闘で忙しい。
「あんな巨大な船。文字通り、明るみに出るなんて、大混乱のもとだろ。おそらく、撤退するんじゃないかな」
「確かに。この世界はパニックになりますね。まぁ、この光の柱となった灯台を見ても、パニックになると思いますけどね。でも、意外と盛り上がったり?」
「少なくとも、この世界でかなりの目撃者はいるだろうな。こんな明け方だが、しばらくすればトップニュースになるんじゃないか?」
シェイの読みは当たるのだろうか。
太陽が少しずつ顔を出す。最初に動きが変わったのは、フロールが気付いた。
「あれ? 攻撃が来なくなった」
ただ、そうは言いつつも、油断は出来ないので、フロールは魔法の発動準備をやめない。
次に、ケンとヤイバが戦っていた相手の数が減り、空間の裂け目が、まるでファスナーで閉じるかのようにして、次々と消失していく。
「終わったか……?」
ヤイバは、その場に崩れた。ケンがライトニングソードを触ろうとすると、電撃に襲われそうになる。
「ヤイバ、自分で宝玉を外して」
「……持ち手以外は攻撃対象になるのか?」
まだ仕組みは分からないことだらけだ。ヤイバは、霹靂神の宝玉をライトニングソードから外した。外した後は、その場に仰向けに倒れて、「これ、キツいな……」とだけ言った。ケンは、そんなヤイバに向かって
「ヤイバ、帰らないと」
「もう少しだけ……」
「帰れなくなるよ」
「分かってる……」
普段は、ヤイバがそんな風にならないが、余程の倦怠感に襲われているのだろうか。ケンは容赦なく、「起きて」と言う。鬼か。真面目なところが、ケンらしいが。半分わざとじゃないかと思うぐらい、冷たく当たっている気がする。ただ、宝玉の力を使うことを決めたのヤイバ自身なので、移動のことを忘れてまで体力を消費したことに、ケンはちょっと怒っているのかもしれない。
螢と志乃がくぐった狭間が消える。どうやら、無事に違う世界に渡れたようだ。
「さて、家に帰りますか」
熊沢がそう言ったことに対して、フロールは
「でも、帰ったらあの館だよ」
「あ、すっかり忘れてました」
そう言って、熊沢は笑った。灯台のバリアと巨大イルミネーションの魔法が解け、巨大な船はいつのまにか……、いや、船はまだいる。
窓から見える巨大な船。朝日が昇り、空は明るいが、船の周りは厚い雲がある。
「さて、あの船はどうするんだろうな」
ヤイバが仰向けのまま言った。丁度、ヤイバから窓越しに見えるみたいだ。
どこからか、鐘の音がする。かなり透き通った鐘の音で、重厚感は無い。
「鐘の音?」
ケンが空耳で無いことを確認するために言った。シェイも聞こえているようで
「鐘なんて、どこにもないけどな……」
「島にお寺とかありました?」
熊沢は、灯台の窓から島を見る。龍淵島の見える範囲に、お寺はなさそうだ。
To be continued…
もともと、「燈臺の輝き」は7話のタイトル予定でした。(以降、繰り下げ)
まさかここまで展開が延びるとは……
長かった物語ですが、次回ついに最終回です。
よろしくお願いします。